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#003【静岡・浜松で働くあなたへ】組織の「空気」を解体せよ

フジテレビ問題とビッグモーター問題に学ぶ、バイアスが企業を蝕む構造と、あなたができる唯一のこと

そのモヤモヤ、あなたのせいじゃない。でも、あなたの責任かもしれない。

静岡・浜松で働くあなた。日々の仕事の中で、こんな違和感を覚えたことはありませんか?
・「なぜか言いたいことが言えない」
・「正しいことより、空気を読むことが優先される」
・「成果を出そうが、“上の顔色を伺う力”がある人が評価される」
それは、あなたの能力や性格の問題ではありません。組織に染みついた“バイアス”が、あなたの判断や行動を知らず知らずのうちに縛っているのです。

フジテレビとビッグモーターに見る「バイアスの暴走」

フジテレビ:空気を読んだ結果、誰も守れなかった

フジテレビの元アナウンサーが元タレント中居氏の自宅を訪れた件が報道されました。第三者委員会の報告によると、彼女は「断れない空気」の中で、上からの事実上の指示に従ったとされています。結果的にフジテレビは、社員である彼女はもとより、会社の信頼も守れませんでした。
「断れない空気」とは、彼女は中居氏の自宅に行く判断をした際に、行かなかった場合にその後社内で自分の身に起こる不利益な状況が頭を過ったと推測されます。
忘れてはならないのは、彼女を中居氏の自宅に差し向けた会社の上役の存在です。
ここでの問いは、「なぜ彼女は断れなかったのか?」ではなく、「なぜ“断れない空気”が組織に存在していたのか?」「なぜ上役は平然と彼女を差し向けたのか?」です。

ビッグモーター:成果至上主義が倫理を破壊した

一方、ビッグモーターでは、保険金の不正請求や除草剤による街路樹の枯死といった問題が発覚しました。社員たちは「成果を出さなければ評価されない」という空気の中で、倫理よりも数字を優先しました。
「雑草が生えていたら減点されるから除草剤を撒いた」——この一文に、組織の病理が凝縮されています。

日本でコンプライアンス問題が多発する主な理由

フジテレビ問題の上役やビッグモーターの社員らの事例からわかる通り、彼らは人として 善 / 悪 の判断をすべき場面での判断基準が、社内で ヨシとされること / ダメとされること にすり替わってしまっています。もはや、判断=自分で考える というより空気を吸うようにバイアスに従っているものと推測されます。
まじめと言われる日本人そして日本企業において、なぜコンプライアンス問題が多発するのかの理由はこのようなところにありそうです。

なぜバイアスは組織内で助長していくのか

バイアスが組織内で助長される理由は明快です。それは、そのバイアスによって得をする人たちがいるからです。しかも多くの場合、無意識のうちに“都合がいい構造”として温存されていきます。
たとえばフジテレビでは、日枝久氏が掲げた「楽しくなければテレビじゃない」というキャッチフレーズのもと、バラエティ黄金期を築いた成功体験が、長らく組織の価値観を支配してきました。おもしろおかしい番組を作れる人が評価され、出世し、社内で影響力を持つ。そうした構造の中では、そのゲームに適応できる人にとって、バイアスはむしろ“武器”になります。
結果として、「面白さ」や「視聴率」が絶対的な評価軸となり、それ以外の価値観——たとえば、ジェンダー配慮や社会的責任といった視点——は後回しにされるのです。こうして、日枝氏と社内会ったこともないであろう若い世代にまで、“見えないルール・評価基準”としてのバイアスが継承されていきます。
そして気づけば、番組のテイストも、女性アナウンサーの扱いも、「不適切にもほどがある」時代に取り残されたまま、組織の中で“当たり前”として生き残ってしまうのです。

あなたの会社にも、“昔の成功体験の押し付け”を武器にいまだに飯を食っている役員や部長がいませんか?

バイアスがもたらす3つの破壊

1.判断の歪み:事実よりも「上司の意向」や「前例」が優先される。
2.倫理の崩壊:成果のためなら手段を選ばない風土が生まれる。
3.信頼の喪失:顧客・社会・社員からの信頼が一気に崩れる。

これらはすべて、企業価値の毀損に直結します。バイアスは、目に見えないがゆえに、気づいたときには手遅れになっていることが多いのです。

「組織を解体する前に、自分の意識を解体せよ」

ありがちな話は、「経営陣が意識を変えるべき」「人事部門が施策展開をすべき」というものです。もちろんそれは間違いではありません。しかし、それを待っている間に、あなたの人生の貴重な時間とキャリアは削られていきます。

だからこそ、まずは「自分の意識を解体する」ことから始めることをおすすめします。

【参考】バイアス例:あなたの中に潜む“見えない偏り”

バイアス名説明誤解例
確証バイアス自分の信じたい情報だけを集め、反対意見を無視する「この部下はダメだ」と思ったら、失敗ばかりに注目してしまう
権威バイアス権威ある人の意見を無条件に正しいと信じる上司の意見に誰も反論しない会議
正常性バイアス異常な事態でも「大丈夫だろう」と思い込む不正の兆候があっても「うちの会社に限って」と放置する
同調バイアス周囲と違う意見を避ける会議で「誰も反対してないから自分も黙っておこう」
アウトグループバイアス自分と異なる属性の人を無意識に排除する「中途採用はうちの文化に合わない」
ハロー効果一つの特徴で全体を評価する「あの人は東大卒だから優秀に違いない」
アンカリング最初に提示された情報に引きずられる「前任者がこうしてたから変えられない」
生存者バイアス成功例だけを見て失敗例を無視する「このやり方で成功した人がいるから正しい」
楽観バイアス自分だけは大丈夫だと思い込む「自分の部署は不正なんて起きない」
ステレオタイプバイアス属性に基づいて人を判断する「女性はかよわいから建設業に向かない」

企業内の空気を解体するために、自分で出来る4つの問い

1.「これは本当に正しいのか?」
 → 空気や慣習に流されず、自分の価値観で判断する。
2.「なぜ私は黙っているのか?」
 → 沈黙の理由を言語化することで、行動の選択肢が広がる。
3.「誰のために働いているのか?」
 → 上司のため?会社のため?それとも、自分や社会のため?
4.「このまま10年後も同じ状況でいたいか?」
 → 未来の自分に誇れる選択を、今しているか?

まとめ:あなたの沈黙が、組織を壊す

フジテレビも、ビッグモーターも、最初から不健全な組織文化があったわけではないと思います。「おかしい」と思いながらも、声を上げる人が皆無だった。その積み重ねが、組織を蝕んだのです。

だからこそ、あなたに問いたい。

「その沈黙、本当に必要ですか?」

組織を変えるのは、制度や研修よりも、あなたの「違和感を言葉にする勇気」です。

筆者紹介:風を読む人事家(火曜日・金曜日ブログ担当)
異業種で人事・総務の世界に身を投じて30年。社員の幸福感・血の通った組織・業績と経営へのインパクトに拘って、あらゆる人事・組織の理論と実践を行き来しながら、組織という名の“生き物”と格闘してきた。建設業に飛び込んで半年。今日も人と組織の“幸福感”を観察中。
週末のライフワークである人事・組織理論の読書の傍らでブログを書き溜めて火曜日・金曜日に予約配信中。
建設業のリアルな現場でも実践し得られたことの共有や、人事・総務の視点から、世の中の矛盾や不条理を鋭く、時に皮肉を交えて切り取ります。
業種を問わずさまざまな企業の中で「なんとなくモヤモヤしている」「組織の中で立ち止まっている」そんなあなたの思考に一石を投じるヒントがここにあるかもしれません。