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#010「真面目」を解体せよ──日本の働き方を再構築する”浜松発”思考革命

「真面目」の正体に気づいたアジアでの衝撃体験

私はかつてアジアの某国に駐在していた。某国の世界的なメーカーT 社と取引をしている中で、同社の技術担当役員と頻繁に酒を酌み交わす親友になった。T社は、「日本のJ社」と「ドイツのG社」の”OEM”を担っている。つまり某国のT社で製造したものを、日本ではJ社の、ドイツではG社の商標を付けて販売されているということだ。

某国のT社には、日本のJ社とドイツのG社の技術者がそれぞれ頻繁に出張に来ていた。ある日、技術担当役員である友人が私にこう語った。

「例えば、彼らとの技術会議が15時に会議目的を果たし終了したとする。ドイツのG社の技術者は『さあ街へ繰り出して案内してくれ!この国の人々の生活にT社の製品がどう根付いているかを見たいんだ!』と言う。一方で日本のJ社の技術者は『17時までが我々の就業時間だから仕事をしなければならないので会議室を貸してくれ』と言うんだ。」

そして、彼は続けた。

「どちらが世の中に価値を与えるアウトプットができると思う?」

この問いは、私の中にあった「真面目=正しい」という価値観に、確実に亀裂を入れた。

“就業時間”か“体験”か──価値を生むのはどちらか?

ドイツのG社の技術者は、現地の生活に触れ、製品がどう使われているかを肌で感じようとする。日本のJ社の技術者は、就業時間を守ることを優先する。

どちらが「真面目」か?
どちらが「価値」を生み出しているか?

この対比は、私たち日本人が信じてきた「真面目=正しい」という価値観に、鋭い問いを突きつける。日本人は、決められた時間に、決められたことを、決められた通りにやることを「仕事」と定義する。しかし、欧米の技術者は、時間を最大限に活かして、価値を生み出すことに集中している。

彼らにとって、時間とは「成果を生むための資源」なのだ。バケーションすらも、創造性と生産性を高めるための投資と言ってよい。これは単なる文化の違いではない。価値観の違いだ。

あなたの「真面目」は、誰のため?何のため?

ここで、あなたに問いかけたい。

・あなたの“真面目”は、誰のためのものですか?

・あなたの時間は、価値を生んでいますか?

・あなたの働き方は、会社のそして日本の未来を豊かにしますか?

「真面目に働くこと」が目的化していないだろうか?
「価値を生むこと」が、後回しになっていないだろうか?

私が一番ショックだったのは、某国のその友人自身が日本の弱点を的確に捉えていて、日本人である私がそれに気づいていなかったことだった。

そして現在でも多くの日本人が海外の現地法人に駐在しているが、残業する日本人をしり目に定時帰宅する現地社員を、多くの日本人駐在員は「この国の人々は無責任だな」と頭を悩ませている。帰宅する現地社員が日本人駐在員にそそぐまなざしは、先に帰る申し訳なさではなく、時間と価値の概念をはき違えている日本人への軽蔑のまなざしであることに気づかず・・・。

「勤勉神話」が通用しない時代がやってきた

戦後の日本は、「勤勉こそが美徳」という価値観のもとに奇跡的な経済成長を遂げた。長時間働くこと、上司に忠実であること、ルールを守ることが「良い社員」の条件とされた。

この価値観は、戦後の復興期には確かに機能した。大量生産、大量消費の時代には、規律と忠誠心が求められた。しかし、時代は変わった。グローバル競争が激化し、AIや自動化が進む中で、単なる「勤勉さ」では通用しない時代に突入している。

安倍元総理が推進した「働き方改革」は、ある事案をきっかけに“過労死を減らすための長時間労働の抑制”に注目が集まってしまったが、安倍さんの本当の目的はこうだったのではないかと私は考える。

本当に変えたかったのは、「真面目」の定義だったのではないか!?

「長く働くこと」が評価される社会から、「価値を生み出すこと」が評価される社会へ。これは単なる制度改革ではなく、意識改革である。

「真面目さ」を進化させることで日本は再び輝ける

これからの日本に必要なのは、「真面目さ」の再定義だ。

・時間を守ること  → 時間を活かすこと (何のための時間か?)

・努力を重ねること → 成果を出すこと  (何のための努力か?)

・ルールを守ること → 価値を創ること  (何のためのルールか?)

真面目であることは悪ではない。しかし、それが目的化し、創造性や柔軟性を奪ってしまって、人間の本来の幸福を阻害してしまったら本末転倒だ。

欧米や私が居た某国のように、「価値創出型の働き方」へとシフトすることで、日本は再び世界に誇れる国になれる。日本人の勤勉さは、世界に誇るべき資質だ。それを「価値創出」に変換出来たら最強だ。そのために意識の”解体”と再構築が必要だ。

未来を変えるのは制度ではなく、あなたの意識

では、私たちは今日から何を変えればいいのか?

今日からできる3つの意識改革

1.成果で評価される仕事の仕方を意識する
 → 「何時間働いたか」ではなく、「どんな価値を生み出せたか」で自分を評価しよう。

2.時間の使い方を“投資”として考える
 → 会議、資料作成、移動…その時間の成果は価値を生むものか?

3.自分の仕事が社会にどう価値を与えているかを考える
 → 「誰のために、何のために」働いているのかを常に問い直そう。

私はいつもこのように考えている

世の中の全ての仕事の報酬は、誰かの「ありがとう」の対価である・・・と。
その人にとって価値があるから対価を払ってくれるのだと。

某国T社の親友の言葉が、今も私の胸に残っている。

「美しい日本と、美徳を重んじる日本人は大好き。でも、ビジネスはまったく尊敬していない。」

実際、私は某国へ赴任する前に「日本の技術・技術者は尊敬されている。日本製品が溢れている。」と想像していたが、車以外に日本製品を見かけることの方が難しかった。

この言葉を、未来の世代には聞かせたくない。だからこそ、私たちは「真面目」という言葉の意味を問い直し、「時間」「報酬」「価値」の概念をアップデートしなければならない。

日本を変えるのは、制度ではない。私たち一人ひとりの意識だ。

「作業」から「価値創出」へ:ChatGPTが切り拓く新しい働き方

かつては、決められた時間内に、定型の仕事をこなすことで社内のプレゼンスを確保することが「安定した働き方」だった。報酬は、時間と忠誠心に対して支払われるものだった。
しかし今、ChatGPTのようなAIツールの登場によって、その前提が根底から揺らいでいる。

ChatGPTは「作業」を奪う

・定型業務(メール返信、議事録作成、資料整理、調査、翻訳など)は、AIが瞬時にこなす。

・これまで「時間をかけてやること」に価値があったが、今や「時間をかけること」が非効率の象徴になりつつある。

価値創出を拒む“守りの働き方”

一部の人は、ChatGPTを導入することで自分の「作業時間」が減ることを恐れている。なぜなら、作業時間こそが自分の存在価値だからだ。
彼らは、AIによる時短を「脅威」と捉え、導入に後ろ向きである。
しかし、それは「価値創出の拒否」といえるだろう。

これから始まる「価値創出合戦」

AIが作業を肩代わりする時代において、人間に求められるのは「創造性」「洞察力」「共感力」「戦略性」だ。

時間の使い方が変わる(例)

Before:8時間のうち6時間が作業、2時間が思考

After:8時間のうち6時間が価値創出、2時間がAIとの連携

つまり、「作業の時間」は減り、「仕事の本質=価値を生む時間」が増える。

価値創出合戦が始まる

これからの職場では、こうなるでしょう:

・「誰が一番効率よく沢山仕事が出来るか」ではなく

・「誰が一番価値あるアウトプットを出すか」が評価される

ChatGPTは、単なる時短ではなく、思考の加速装置として活用する。
そして、空いた時間で「新しい価値」を生み出す。

世界と戦える日本人になるために

この流れは、もう止められない。

ChatGPTを拒むことは、価値創出を拒むこと。
そして、価値創出を拒むことは、未来の報酬を拒むことでもある。

今こそ、日本人の働き方は進化すべきだ。

・「真面目に働く」から「賢く価値を生む」へ

・「時間を守る」から「時間を活かす」へ

・「作業をこなす」から「未来を創る」へ

“問いを立てる力”が価値創出の出発点

「問いを立てる力」と「課題解決力」との違い

・課題解決力は、すでに明確になっている問題に対して、最適な解決策を導く力。

・一方で、問いを立てる力は、「そもそも何が問題なのか?」を見抜き、まだ誰も気づいていない本質的な問いを発見する力。

なぜ重要か?

・AIは既知の問題に対する解決策を高速に導き出せる。

・しかし、未知の問いを立てることは人間にしかできない。

・真のイノベーションは、「正しい問い」から始まる。

クリティカルシンキング:思考の質を高める力

「クリティカルシンキング」と「戦略的思考」との違い

・戦略的思考は、目標達成のための道筋を描く力。

・クリティカルシンキングは、情報や前提を疑い、論理的に検証し、偏りなく判断する力。

なぜ重要か?

・AIは膨大な情報を提供するが、それを鵜呑みにせず、吟味する力が必要。

・クリティカルシンキングがある人は、情報の真偽を見極め、最適策を的確に選択できる人。

ChatGPTがもたらす「時間の再配分」

ChatGPTのような生成AIが職場に導入されると、まず最初に起こるのは「時間の再配分」です。

これまで私たちは、1日の大半を「作業」に費やしてきました。たとえば:

・メールの文面を考える
・会議の議事録をまとめる
・調査資料を集めて要約する
・提案書のたたきを作る

こうした業務は、時間をかければ誰でもできる「定型業務」です。ところが、ChatGPTはこれらを数秒〜数分でこなしてしまう。つまり、人間がやる必要のない仕事が急速に増えているのです。

空いた時間で何をするかが鍵

では、AIが作業を肩代わりしてくれたことで空いた時間を、私たちはどう使うべきでしょうか?ここで分かれ道が生まれます。

A. 「空いた時間を埋める」人

・これまで通り、何かしらの作業を探して時間を埋めようとする
・ChatGPTを使っても、結局「作業の効率化」にとどまる
・プレゼンスを守るために、あえて人力での高効率さと量をアピールする

B. 「空いた時間で価値を生む」人

・顧客の本質的な課題を考える
 (社内において「顧客」とは、自分が生み出す価値を社会の顧客の価値に変換してくれる社員と置き換えられる)
・新しいサービスや仕組みを構想する
・社内外の人と対話し、共創の機会をつくる

自分の専門性を深める学習や情報収集に時間を使う

この違いが、これからの時代の「報酬格差」や「評価格差」につながっていくと思われます。

価値創出型人材に求められる力

AI時代においては、以下の力が「人間にしかできない価値創出」の源泉になります:

1.問いを立てる力:本質的な課題を見抜き、誰も気づいていない問いを発見する力
2.クリティカルシンキング:情報を疑い、論理的に検証し、偏りなく判断する力
3.創造性:ゼロから新しいアイデアを生み出す力
4.共感力:相手の立場に立って考え、ニーズを深く理解する力
5.適応力:変化を恐れず、柔軟に対応する力
6.テクノロジー理解力:AIやデジタルツールを使いこなす力

結論:AI時代の働き方は「意識」で決まる

ChatGPTの登場は、働き方の終わりではなく、新しい始まりです。

・「作業をこなす」から「価値を創る」へ
・「時間を守る」から「時間を活かす」へ
・「AIに怯える」から「AIと共創する」へ

某国T社におけるドイツのG社の技術者のように、空き時間に街にリサーチに繰り出すことが、“サボり”として糾弾されない企業・浜松・日本をめざしませんか?

筆者紹介:風を読む人事家(火曜日・金曜日ブログ担当)
異業種で人事・総務の世界に身を投じて30年。社員の幸福感・血の通った組織・業績と経営へのインパクトに拘って、あらゆる人事・組織の理論と実践を行き来しながら、組織という名の“生き物”と格闘してきた。建設業に飛び込んで半年。今日も人と組織の“幸福感”を観察中。
週末のライフワークである人事・組織理論の読書の傍らでブログを書き溜めて火曜日・金曜日に配信中。建設業のリアルな現場でも実践して得られたことの共有や、人事・総務の視点から、世の中の矛盾や不条理を鋭く、時に皮肉を交えて切り取ります。
業種を問わずさまざまな企業の中で「なんとなくモヤモヤしている」「組織の中で立ち止まっている」そんなあなたの思考に一石を投じるヒントがここにあるかもしれません。