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#016「心はどこにある?」——見えないものに触れるリーダーシップ

「心はどこにあるのか?」

「心はどこにあるのか?」

この問いに、私たちはどう答えるだろうか。胸のあたりを指す人もいれば、脳を指す人もいるかもしれない。あるいは、「そんなの考えたこともない」と笑う人もいるだろう。

けれど、組織の中で人と向き合い、社外の様々なステークホルダーとも向き合い、リーダーとして意思決定を重ねる日々の中で、この問いは私にとって、次第に重みを増している。

ときに、誰かの何気ない一言が心に刺さって眠りを妨げることがある。そんなとき、私は思うのだ。

——心って、いったいどこにあるんだろう?

——心って、いったい何なんだろう?

目に見えないものを扱うということ

組織運営において、数字や成果は目に見える。売上、利益、KPI、エンゲージメントスコア。これらは報告書に載り、会議で議論され、評価の対象となる。

しかし、心はどうだろうか?

誰かが落ち込んでいるとき、誰かが怒っているとき、誰かが不満に思っているとき——その「心の動き」は、数値化できないし、報告書にも載らない。けれど、確実に組織の空気を変え、意思決定に影響を与え、チームの力を左右する。

つまり、リーダーは「目に見えないもの」を扱う職業でもある。

そしてその「目に見えないもの」に、どれだけ丁寧に触れられるかが、組織の未来を左右する

心は「関係性」の中にある

私はキャリアコンサルタントの勉強を進める中で、「心はどこにあるのか?」という問いに対して、こう思うようになった。

「心は、人と人との関係性の中にある」と。

個人の内面に閉じたものではなく、誰かとの関係の中で立ち上がるもの。つまり、心は「私の中」だけでなく、「あなたとの間」にも存在する。

たとえば、部下が何かを相談してきたとき、その言葉の裏にある不安や期待に気づけるかどうか。そこに「心」がある。あるいは、会議で誰かが沈黙しているとき、その沈黙に意味を見出せるかどうか。そこにも「心」がある。

心は、言葉の奥に、表情の隙間に、沈黙の中に、そして関係性の揺らぎの中に、そっと息づいている

それは、見ようとしなければ見えないし、感じようとしなければ感じられない。けれど、確かにそこにある。

見えない“過去の感情”が、今の業績に影響する理由

社長になりたての私は、現在、お客様、協力会社の皆さん、地域発展のための各種協会の皆さんなど、様々なステークホルダーとお会いさせていただくステージにある。

私たちの会社は、株式を保有していた元オーナー社長が後継者の課題などから会社を売却し、現在は金融機関を中心とした株主で構成される会社となっている。そして地元浜松で多くの皆さんに育んでいただいた私や、元来実直な社員で会社が構成されている。
しかし、お会いさせていただく方々は、当然ながら、“法人”としての当社との間で起こった過去の出来事による感情をそれぞれの心の中にお持ちである。それは、例えばコストや工事品質といった類とは関係が低いことが正直多い。が、確実に事業成績に大いな影響を及ぼしている。

未来のためにありたい関係性との乖離を埋めるためには、その感情の原因となった出来事を知り、現在の事実や実力を認知していただき、それでも沸き立たれる感情を知り、誠実にあらためて事実や実力を認知していただく活動を積み上げ、感情に占める“信頼”の割合を高めていくほかに方法はない。

相手の言葉や態度に、嬉しくなり大きな希望を持つこともあれば、途方に暮れることもある。しかし、相手の心や感情は、コントロールすることは出来ない。
かねてから、アンコトローラブルなことで、自分の心を傷つけたり消耗させないように、コントロールが出来る自分の心を操縦することで心を解放するように気を付けている

モヤモヤは、成長の予兆かもしれない

キャリアコンサルタントの勉強をする中で、私は「経験代謝」という考え方に出会った。これは、JCDA(日本キャリア開発協会)が提唱する理論で、人が経験した出来事を、ただの「過去」として終わらせるのではなく、意味づけし直すことで「未来の力」に変えていくというものだ。

私はこの考え方に触れたとき、走馬灯のように半生で起こった数々の場面が脳裏を駆け巡った。

なぜなら、私自身、組織の中で人と関わる中で、何度も何度も「モヤモヤした経験」をしてきたからだ。誰かとのすれ違い、意図が伝わらなかった会話、思いがけない反発——そうした出来事は、決して気持ちのいいものではない。むしろ、心がざわつき、落ち込むことの方が多い。

でも、今振り返ると、そうしたモヤモヤこそが、私を成長させてくれたのだと思う。

JCDAの経験代謝では、「人との関係性の中での“経験”」が特に重要視される。なぜなら、他者との関わりの中でこそ、自分の価値観や思い込みが揺さぶられ、新たな視点が生まれるからだ。

たとえば、かつてある上司とのやり取りで、上司の言葉に自分の心が大きく傷つけられたことがある。そのときは、ただただモヤモヤして、怒りすら沸いてきた。でも、後になってその出来事を振り返り、「なぜあの言葉にモヤモヤしたのか」「傷つけられたと感じた大切な価値観とは何なのか」を考えたことで、自分が大切にしてきた価値観に気づき、その価値観を大きくパワーアップさせるきっかけになった

つまり、モヤモヤは、成長の予兆なのだ。

そしてそのモヤモヤを放置せず、丁寧に振り返り、意味づけし直すことで、経験は「ただの過去」から「未来の力」へと変わっていく

丸友開発株式会社が微力ながらキャリアコンサルタントの勉強会を後援しているのも、こうした「経験を力に変える場」を広げたいという想いからである。

昭和的な縦社会では見えづらかったもの

私が育ってきた昭和的な縦社会では、「心」はあまり語られなかったのではないだろうか。むしろ「気合」「根性」といった精神論が重視され、有無を言わさず「同調」を求められた。感情や迷いは「弱さ」や「離反」として扱われることがあった。

でも、私はその空気に、どこか違和感を覚えていた。

人はロボットじゃない。感情があり、揺らぎがあり、迷いがある。そんな人間らしさを無視して、組織が本当に強くなれるのだろうか?

今の時代は違う。多様性が尊重され、働き方が変化し、価値観が多様化する中で、「心」に触れる力が、リーダーにとってますます重要になっていると感じる

それは、単なる優しさではない。むしろ、関係性の中で何が起きているかを見抜く力であり、過去からのストーリーや状況から「心」を読み解く力であり、その場にふさわしいリーダーシップを繰り出す力でもある。

ストーリーや状況で繰り出すリーダーシップと「心」

私はこれまでのキャリアの中で、鬼軍曹型のリーダーシップをとる人の後任として組織のリーダーに任命されることが何度かあった。その度に「優し過ぎる」「鬼になれない」的なことを言われるのだが、鬼か仏かの二極で語られることに違和感を感じてきた。組織の状況に応じて、時に率先垂範したり、鬼軍曹にもなったり、民主的に任せたり、支援に徹したりと、経営状況やストーリーの中でバランス良く可変することを心掛けてきた。そしてそれが出来ていたか、効果があったかの評価は経営成績として数字にも表れ、失敗から学びあらためたことも多い。

このスタイルは、「心」に寄り添うリーダーシップの手段ではなかっただろうかと今になって思う。

なぜなら、組織の状況やストーリーを読み解くむには、そこにいる人々の「心の状態」を感じ取ることでもあるからだ。今、チームは疲れているのか?迷っているのか?挑戦したがっているのか?——その「空気」を読み取り、必要なスタイルを選び取る。

つまり、心を感じる力が、状況を読む力につながり、状況を読む力が、リーダーシップの質を決めると信じている

そしてその力は、経験や知識だけでは育たない。人と向き合い、迷い、悩み、時に傷つきながら、少しずつ育まれていくものだと思う。

心に触れる勇気

最後に、私はこう思う。

「心はどこにある?」という問いに向き合うことは、リーダーとしての勇気でもある。

なぜなら、心に触れるとは、相手の痛みにも、自分の弱さにも、向き合うことだからだ。それは、時に怖いし、面倒だし、効率的ではないかもしれない。

でも、そこにこそ、組織の本当の力がある。人が人として尊重され、関係性が深まり、信頼が育まれる。そんな組織には、数字以上の力が宿る。

だから私は、これからも問い続けたい。

――――あなたの“心”は、どこにありますか?

その問いに向き合うことから、組織も、あなた自身も、変わり始めるのかもしれません。

そして、その問いを通じて、見えないものに触れるリーダーシップを、これからも、丁寧に、磨いていきたい。

筆者紹介:風を読む人事家
自動車業界で、人事~海外子会社CEO~人事担当役員などを経て当社へ。社員の幸福感・血の通った組織・業績と経営へのインパクトに拘って、あらゆる人事・組織の理論と実践を行き来しながら、組織という名の“生き物”と格闘してきた。フィールドを建設業界に移し、今日も人と組織の“幸福感”を追求中。
週末のライフワークである人事・組織理論の読書の傍らで徒然なるままに書き溜めたブログです。
建設業のリアルな現場でも実践し得られたことの共有や、人事・組織論の視点から、世の中の矛盾や不条理を鋭く、時に皮肉を交えて切り取ります。
業種を問わずさまざまな企業の中で「なんとなくモヤモヤしている」「組織の中で立ち止まっている」そんなあなたの思考に一石を投じるヒントがここにあるかもしれません。
2025年7月より当社代表取締役社長