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#023 “どこにいるか”があなたの物語を変えるーー人生における“場所”の支配力

あなたの居場所は、あなたを腐らせていないか?

なぜ「場所」が重要なのか?
人は、どこにいるかによって、見える景色も、感じる空気も、出会う人も変わり、私たちの思考や行動は「どこにいるか」によって大きく左右される。
「場所」は単なる物理的な座標ではなく、私たちの思考や感情、そして人生そのものに深く影響を及ぼす。つまり、「どこにいるか」は「どう生きるか」に直結する。
組織で働く中でも、家庭でも、旅先でも——「どこにいるか」は、私たちの可能性を広げたり、時に閉ざしたりする。
この記事では、人生やビジネスの現場で「場所」がもたらす影響について掘り下げていく。
今いる場所が、自分の可能性を広げてくれる場所なのか───そんな問いについて考えていきたい。

実体験:九州の子会社でもたらした変化

私は前職で、リーマンショックの直後、九州にある子会社に転勤となり、社長を支える番頭の立場でひとつの会社を任された。地方の子会社の経営には生活に直結する責任感が伴った。社員の生活を守るという使命感が芽生えたのは、まさに九州という「場所」にいたからこそ。経営の数字だけでなく、人の暮らしを支えるという視点が加わったことで、私の経営観やリーダー像は大きく変化した。
地元静岡と同じ日本なのに、九州の人々や土地が持つ温かさ、結びつきの強さ、文化は、人間愛と人情にあふれ、私が心に持つ日本・日本人そのものだった。それは人間関係構築、引いてはビジネスにおける文化の大きな違いもあり、前述の自分の大きな成長への影響度が大きい。これは、地元静岡に留まっていたら得られなかったであろう感覚だ。
「どこにいるか」が「何を大切にするか」に影響を与える───九州での時間は、そのことを深く教えてくれた。場所が人を変える。私の人生の中での大きな気づきのひとつを得る貴重な時間だった。場所が変わることで、これまでの自分の常識や価値観が揺さぶられ、新しい自分に出会うことができた。
会社組織・事業所において座標として「どこにいるか」は、単なる肩書き以上に、その人の役割や影響力を変えてしまうことを知った。
 

創造性やアイデアの大きさは、移動距離に比例する。

創造性やアイデアの大きさは、移動距離に比例すると思っている。
遠くへ行けば行くほど、さまざまな価値観の人々と出会い、異なる文化に触れることができる。
距離が遠いほど、同調圧力から解放され、自分らしい発想が生まれる。
例えば、#010「真面目」を解体せよ──日本の働き方を再構築する”浜松発”思考革命 で紹介した海外駐在中に外国から見た日本は、私たちが普段気づかない「真面目さ」や「協調性」の異質さが際立って見えたことを紹介した。外国だからこそ気づけた日本の良さや課題を知ったのだ。

#010「真面目」を解体せよ──日本の働き方を再構築する”浜松発”思考革命

同記事のエピソードのように、移動距離が遠ければ遠いほど文化や価値観の違いは大きくなり、それらとの出会いは、私たちの創造性を刺激し、固定観念を打ち砕いてくれる。
移動することで、私たちは新しい自分に出会い、より自由な発想を手に入れ、創造性が解き放たれる。
また、異なる文化に触れることで、自分の「当たり前」が揺さぶられる。それは不安でもあり、同時に刺激でもある。創造性とは、そうした揺らぎの中から生まれるもの。だからこそ、遠くへ行くことは、思考の自由度を広げる最良の方法だ。

ワーケーション:場所を変えることで、働き方も人生も変わる

当記事のテーマの延長線上にあるのが、ワーケーションという働き方だ。Work(仕事)とVacation(休暇)を融合させたこのスタイルは、単なるリフレッシュではなく、創造性と生産性を高めるための「場所の選択」に他ならない。
都会の喧騒から離れ、自然に囲まれた環境に身を置き、頭の中のノイズを消すと、アイデアが湧きやすくなる。これは、単なる気分の問題ではなく、環境が脳の働き方に影響を与えている証拠だ。別の記事でも書いたように、アイデアは副交感神経が優位な時にあふれてくる。
ワーケーションの本質は、「同調圧力からの解放」にもある。いつものオフィス、いつものメンバー、いつものルール───その枠から一歩外に出ることで、自分らしい思考が戻ってくる。特に地方や海外でのワーケーションでは、異なる文化や価値観に触れることで、視野が広がり、固定観念が崩れていく。さらに、地域との関係性を築くことで、地方創生にも貢献できたり、新たなビジネス創出の可能性すらある。
 

ビジネスの現場でも「どこにいるか」の影響は絶大

ビジネスの世界でも、「どこにいるか」は大きな意味を持つ。
最たる例が、二輪・四輪の自動車部品メーカーだ。いまだ“系列”が色濃く残る自動車業界。系列の自動車メーカーの進出国に、部品メーカーも追随して進出する。わかりやすく言えば、進出国の市場に占める系列自動車メーカーのシェア分だけ、当該部品の市場シェアを高確率で手中にすることが出来るのだ。ベトナム、タイ、インドネシア、インド、そしてアフリカと巨大市場だ。
(海外での経営や高品質のモノ作りを続けることの難しさは棚に上げていること、このロジックに合致しない国もあることを申し添えておく。)
日本や地元に留まらず飛び出した場合、ビジネスの可能性は無限に広がる。
この例は、「どこにいるか」を戦略的に選ぶことが、ビジネスに及ぼす影響度の高さの象徴といえる。

解体業での気づき:街のアップデートは「場所」から始まる

私が関わる解体業でも、「場所」が持つ力を日々感じている。
街のアップデートは、まず「場所」を見直すことから始まる。
古い建物を解体し、新しい空間を創造することで、街の表情が変わり、人々の暮らしも変わる。
そこで大切になるのは、「移動」や「距離」ではなく、その場所が持つ「コンテキスト」だ。
「場所」の持つ文脈や歴史に根ざした土地や空間の創造こそ、街の価値を再発見に繋がる。
その土地にしかない課題や資源を見つけることで、ビジネスの意味が深まっていく。街のアップデートは、まず「場所」を理解することから始まる。
解体は新しい可能性の創造であり、「場所との対話」でもある。その建物がなぜそこに建てられたのか、どんな人が住んでいたのか───そうした背景を知ることで、次に何をすべきかが見えてくる。場所には記憶が宿る。だからこそ、街づくりは「場所との対話」から始まる。

人の成長もパフォーマンスも「どこにいるか」で変わる

組織の中で「どこにいるか」は人材の成長や活躍に大きな影響を与える。
同じ会社でも、部署や拠点が違えば、求められる役割や評価軸も変わる。
私は実体験からも「企業における最大最高の人材育成は人事異動だ」と感じている。
異動先の部署や役割に必要な知識・能力と、現状の自分のそれとの乖離は、早期に埋めようと人間は頑張る。そこには大きな不安と苦痛が伴うだけに企業側は乖離の大きさへの配慮が必要だ。一方で異動後に数年経過し、乖離を埋め、自分が成長出来た達成感の大きさは、当初の乖離の大きさと比例する。

人材のパフォーマンスも、「どこにいるか」で大きく変わりる。レガシーな組織風土では、挑戦が抑制され、個人の力が発揮されにくい。
この手の話は、これまでのブログ記事でさんざん語ってきた。また、組織の文化すら場所によって形成されることも記事の中で語ってきた。
#015 「逃げるが勝ち」人生を再構築する“エスケープのすすめ” では、今居る場所から逃げることすら語ったほどだ。

#015 「逃げるが勝ち」人生を再構築する“エスケープのすすめ”

「どこにいるか」は人材の可能性を左右する重要な要素だ。その企業自体がその影響の大きさを理解し、もっと「場所」を活かすことができれば、組織も人ももっと柔軟に、もっと強くなれる。
どこにいるか、どんな環境に身を置いているか——それが、人と組織の可能性を最大限に引き出す鍵になる。
「どこにいるか」を変える勇気が、組織にも個人にも、新しい未来をもたらす。

あなたは今、どこにいる?

最後に、問いたい。

あなたは今、どこにいるだろうか?

今いる場所は、自分の価値を最大限に発揮できる場所か。あなたの可能性を引き上げているか。
もし、今いる場所に違和感や閉塞感を感じているなら、「場所」について考えてみてほしい。
場所を変えることで、見える世界も、出会う人も、あなた自身も変わる。
一方で場所を変えることには、大きな不安と苦痛、そしてその先にある大きな成長と大きな喜びが伴う。今いる場所に留まることでの違和感・閉塞感・不活性感に対する不安と苦痛とで天秤に掛けたら、どのように感じるだろうか。
場所を意識することは、人生のレバレッジポイントを見つけることでもある。
「どこにいるかが大きな影響を及ぼす」——この記事が、皆さんにとって「場所」を見直すきっかけになり、新しい一歩のきっかけになれば嬉しい。

筆者紹介:風を読む人事家
自動車業界で、人事etc.~海外子会社CEO~人事担当役員などを経て当社へ。社員の幸福感と、業績と経営へのインパクトとの両立に拘って、あらゆる人事・組織の理論と実践を行き来しながら、組織という名の“生き物”と格闘してきた。フィールドを建設業界に移し、今日も人と組織の“幸福感”を追求中。
週末のライフワークである人事・組織理論の読書の傍らで徒然なるままに書き溜めたブログです。
建設業のリアルな現場でも実践し得られたことの共有や、人事・組織論の視点から、世の中の矛盾や不条理を鋭く、時に皮肉を交えて切り取ります。
業種を問わずさまざまな企業の中で「なんとなくモヤモヤしている」「組織の中で立ち止まっている」そんなあなたの思考に一石を投じるヒントがここにあるかもしれません。
2025年7月より当社代表取締役社長