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#026 “学び”とは『心のOS』をアップデートする営み——人生の豊かさは、真の“学び”を続ける者の手にアリ!

「学び直し」「リスキリング」という言葉が飛び交う時代。でも、本当にそれで人生は豊かになるのか?
私たちはなぜ学ぶのか?その問いに、あなたは即答できるだろうか。

私はこう考える。“学び”とは、単なる知識の追加ではなく、心のOSをアップデートし、行動を変え続ける営みだと。
本記事では、私の長い人事の仕事の中で最も大切にしてきた概念 EQ(感情知能) に触れ、EQと学びの関係を紐解きながら、人生を豊かにする学びの本質を探る。

EQとは何か——心のOSを整える力

EQ(感情知能:Emotional Intelligence)は「自分や他人の感情を理解し、適切に扱う能力」。IQ(知能指数:Intelligence Quotient)が「頭の良さ」なら、EQは「心の賢さ」。しかも、EQは後天的に伸ばせるという点が何より魅力だ。
かつて「高学歴で大企業に入ること」が人生のゴールだった時代、IQばかりがもてはやされた。でも、社会との接点を断って受験勉強に没頭してきた人が、人の心を理解しづらいのはなぜか?
その答えの一端が、EQにある。

EQの4つの要素

自己認識(Self-Awareness)
自分の感情を正しく理解し、「なぜ今こう感じているのか」を把握する力。

自己管理(Self-Management)
感情に振り回されず、状況に応じてコントロールする力。

社会的認識(Social Awareness)
他人の感情や立場を理解し、共感する力。

人間関係管理(Relationship Management)
良好な人間関係を築き、協力や信頼を生む力。

EQが高い人は、人間関係も仕事もスムーズに進むので、他人からの信頼度は高い。
一言でまとめるなら、EQは「感情を理解し、賢く使う力」だ。

人間をスマホに例えると見えてくる『学びの本質』

本記事の趣旨を語るには、人間をスマホに例えるとわかりやすいのではないかと思う。

IQは、『容量・処理能力』

EQは、『OS』

知識教養は、『アプリ』

どれか一つだけでは不十分。
OSが不安定なら高性能でも使いづらいし、アプリがなければ可能性は広がらない。
人間も同じだ。IQだけ高くても、EQが不安定なら人間関係や自己管理でつまずき、知識教養も宝の持ち腐れとなる。

学びとは何か——OSとアプリの両輪

ここが核心だ。
“学び”とは、アプリ(知識教養)をインストールすることと、OS(EQ)をアップデートしていくこととの両輪を回すことだと私は思う。

自動車の運転で運転が上手くなっていく過程を思い出してほしい。
教習所で道路交通法や運転技術を学ぶことは『アプリのインストール』。
免許取得後、日々、公道での運転でヒヤリとした経験、ハッとした瞬間を重ね、危険予知能力と運転技能、更には譲ったり、歩行者を守ったりする力を身につけることは『OSのアップデート』。
この両輪があって初めて、行動変容が繰り返され、どんどん上達していく。
逆に「俺は完璧だ」「私は事故をしない」と思った瞬間、学びは止まり、成長の扉は閉ざされる。

「学び直し」と「リスキリング」への違和感

世間で飛び交う「学び直し」「リスキリング」という言葉。私はここに違和感を覚える。

1. 学びが止まっている前提

日本では「勉強は学生がすること」「社会人になったら仕事」という考え方が根強い。
しかし、社会人になってからの人生の方が長い。社会人になってからも学び続ければ、10年、20年、30年、40年・・・で大きな差が開く。
キャリアにおいて一定のトランジションを繰り返し、生涯学び続けているなら、“学び直す”という概念は生まれない

2. 学び直し=学校に行く?

お金を払って学ぶことは初歩的な学びに過ぎない。
本当に質の高い学びは、仕事を通じて「お金をもらいながら学ぶ」ことだと思う。
学生まではお金を払って学んでいたものが、社会人になった時からお金をもらって学ぶ生活に変わるのだ。

3. 本当の学びは予定調和しない

デイビッド・コルブが提唱した経験学習モデルは、学びは単なる座学ではなく、実際に行動し、その結果を振り返り、次の挑戦に活かす。この循環こそが成長エンジンだというものだ。このサイクルは一度で終わらず、新たな経験とともに、学びはらせん状に深まっていく。ビジネスの現場では、日々の業務やOJTがこのサイクルの舞台。失敗も成功も、すべてが次の飛躍の糧になる。
「効果があるものしかやらない」よりも、「よくわからないけど面白そう」に飛び込むことの方が学びによる真の効果が得られるとされるのも私はとても共感する。

OJTとOFF-JT——両輪で考える

企業研修では、OJT(On-the-Job Training:職場で実務を通じた教育訓練)とOFF-JT(Off-the-Job Training:職場を離れて行う講座や研修)の両方が語られる。
OJTは「教育という名の“放置”」と揶揄されることもある。しかし、育成のための計画的な人事異動やジョブローテーションもOJTと考えれば、EQを育むにはうってつけだ。
OFF-JTは知識を学べる場だが、それだけでは行動変容は起きない。
企業研修では、OJTで実務スキルとそれを取り回す人間関係力を磨き、OFF-JTで理論や知識を補うという組み合わせで体系的にバランスよく取り入れることで、“理論や知識に裏付けられた” “力強い行動や行動変容”を繰り出す社員が養成されていき、戦力増強され長期的な成長にも寄与できる。本記事の趣旨と概念は似ていると思う。

人事でモヤ付く社員の“学び”の概念

私の経験上、新規採用者や中途採用者から入社前に受けることが多かった質問が「教育カリキュラムは整っているか?」だ。不安な気持ちは理解出来るが、あきらかにその質問に黙示された真意は「仕事に必要な“座学”は全て会社が提供してくれるのか?」だった。そんな時にモヤ付いていた自分の気持ちを、自動車運転に例えて分析するとこうだ。

教習所で必要なことはちゃんと教えますよ。でも公道に出て経験学習する気概を持ってますか?


こんなこともあった。
前職の自動車部品業界でのこと。EV車が内燃車にとって代わると売上が減少するから「新規事業が必要だ!」という局面。何の新規事業を立ち上げるかまだ決まっていないのに、多くの社員から「新規事業に必要な教育を施せ!」と迫られて、かなりモヤ付いたことを覚えている。その時の自分の気持ちを分析するとこうだ。

・どんな知識が必要かが判る前から、「早く『アプリ』をインストールしろ!」と言われても…
・新規事業を事業化まで取り回していく力は、EQすなわち『OS』の高さがものをいうのに、「教育してくれなければ出来ない」という人たちを相応のEQレベルまで引き上げるのは難しいぞ…

翻って人事の仕事における“教育訓練”とは、社内の各仕事をパワフルにドライブして事業の発展に寄与する社員を増やすために、各仕事のアプリをインストールして、人事異動やジョブローテーションやOJTでOSをアップデートしていくこと。更には時に再度アプリをアップデートしていくという教育体系を構築して取り回すということだ。
血が通う教育体系が設計・運営できるかどうかが、人事の腕の見せどころだ。

「学び直し」「リスキリング」「リカレント教育」

世で飛び交う「学び直し」「リスキリング」「リカレント教育」、正しく理解して実行することは悪いことではない。
厚労省・経産省・文科省がいう言葉の定義を記しつつ、本記事でこれまで述べてきた考え方で整理して、混在を紐解いてみよう。

「学び直し」とは、社会人が新しい知識やスキルを習得するために行う学習活動。「学び直し」には、「リカレント教育」や「リスキリング」といった具体的な取り組みも包含するとあるから少し上位概念だ。

「リスキリング」とは 、「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させることで、特定の仕事に役立つ新しいスキルの習得を目的としているとある。
新たな仕事のアプリの習得と考えると私はしっくりくる。

「リカレント教育」とは、学校での学びを終え社会に出たあとも、それぞれの必要なタイミングで学び続けること。学びと仕事を往復し繰り返しながら、仕事に役立つスキルを身に着けていくこと。
トランジションによるOSのアップデートを前提に、その可能性を拡げるために、アプリのインストールやアップデートをすることと考えると私はしっくりくる。

いずれも『アプリ』のインストールやアップデートと言って良い。
大切なことは、さまざまな人生経験や、転職・人事異動・ジョブローテーションなど挑戦的な経験や強烈な体験により、『OS』すなわち“EQ”の各要素を高めることも大切な“学び”と心得て怠らないことだ。さすれば『アプリ』という引き出しから無数の知識を行動とともに炸裂させ、会社や社会に貢献という名の爪跡を残せるだろう。

学びは楽しい!

本来、学びは楽しいものだ。
わからないことがわかる、できなかったことができるようになる。それで人生は豊かになる。
スポーツも美術も、知識があるから面白い。野球のルールを知っているから試合が面白い。美術館も背景知識がある絵画は趣深い。
経営や人事も同じで、戦略論や組織論を学び、実践し、成功と失敗を繰り返し、実践知が増えていき、自分がバージョンアップしていくから面白い。
学びは世界の扉を開く鍵だ。

道元の「遍界不曽蔵(へんかいかつてかくさず)」という言葉がある。私たちが生きるこの世界には無数の宝物が隠されることなく溢れているけれど、それを見つけられないのは心が閉ざされているから…といった意味だ。
心さえ開けば真理と悟りは目の前にある。

だから、学びを「仕方なくやる」「学生じゃあるまいし」「知りたいことだけ学ぶ」ではもったいない。
更には「俺ってイケてる」「私は完璧」と思った瞬間、学びによる進化は止まり、GEOの中古品棚に陳列されることになるから “ おごり ” にも要注意だ。
学びは人生を豊かにする最大の鍵なのだ。

あなたのOSは、いつアップデートしましたか?

次に飛び込む「よくわからないけど面白そう」は、どこにありますか?

筆者紹介:風を読む人事家
自動車業界で、人事etc.~海外子会社CEO~人事担当役員などを経て当社へ。社員の幸福感と、業績と経営へのインパクトとの両立に拘って、あらゆる人事・組織の理論と実践を行き来しながら、組織という名の“生き物”と格闘してきた。フィールドを建設業界に移し、今日も人と組織の“幸福感”を追求中。
週末のライフワークである人事・組織理論の読書の傍らで徒然なるままに書き溜めたブログです。
建設業のリアルな現場でも実践し得られたことの共有や、人事・組織論の視点から、世の中の矛盾や不条理を鋭く、時に皮肉を交えて切り取ります。
業種を問わずさまざまな企業の中で「なんとなくモヤモヤしている」「組織の中で立ち止まっている」そんなあなたの思考に一石を投じるヒントがここにあるかもしれません。
2025年7月より当社代表取締役社長