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#033 自分を知る深さしか、相手を理解できない

人の気持ちがわからずに立ち尽くす日がある。
相手の反応にモヤっとし、「なぜ?」と自分を責める夜がある。
けれど、その答えは“相手の中”ではなく、いつも自分の内側にある——。

年末、キャリアコンサルタントを共に学んだ仲間と呑んでいたとき、ふと仲間が言った。
「先生が、『自分のことを知る深さの分しか、相手のことを理解できない』って言ってたよね。」
その瞬間、私はハッとした。学びの場では流れていった言葉が、今の自分の心に深く刺さったのだ。本記事は、哲学者や心理学者の言葉を“架け橋”にしながら、静かに自分を知る旅へと誘うものである。

あなたは、自分をどれだけ知っているだろうか

「あなたは、自分のことをどれだけ知っているだろうか。」

そんな問いかけは、誰の胸にも少しだけ痛みを残す。自分を理解しているつもりでも、ふとした瞬間に「本当の自分はどこにいるのだろう」と迷うことがある。

人の感情に悩むとき、相手の行動が理解できないとき——
私たちはつい「相手を理解するにはどうしたらいいか」を考えてしまう。

哲学者ソクラテスは遥か昔にこう言った。
「汝自身を知れ」
2500年の時を超え、今もなお、私たちの核心を突く。

自分を知らないまま、相手を理解することはできない。
地図なしで旅に出て、あてもなく目的地を探すようなものだ。

なぜ“自分を知る”ことがこんなにも難しいのか

現代社会は、便利さとスピードの中で動いている。しかし、そのスピードこそが私たちの“本当の声”をかき消してしまう。

上司としての役割
親としての期待
仲間としての振る舞い
SNSで「こう見られたい」という欲求

役割が積み重なるほど、本当の自分は奥へ奥へと押し込まれていく。
心理学ではこれを「役割自己」と呼ぶ。役割に沿って動けば動くほど、“本来の自分” が曖昧になっていくのだ。

「自己理解の欠如による不安定さ」さを一貫して発信されている心理学者の加藤諦三氏はある動画の中でこのように語られていた。
「自分を見つめることを避ける人は、結局、他人の目に映る自分に振り回される。」
評価されるために自分を演じるようになると、本音は沈黙する。
やがて自分の感情さえ、「誰かの期待」に支配されていく。

フランスの哲学者パスカルは言った。
「人間は偽装と虚偽と偽善にほかならない、自分自身においても、また他人に対しても。」
人間が本質的に不完全で、見せかけの理想像を作り上げたり、都合の悪い真実から目をそむけたりする。 他者に対しても本当の自分を見せず、役割や体裁を演じたり、相手の欠点と自分の欠点を隠し合ったりする。人間の二面性や複雑さを鋭く指摘している。

自分を知ることは、他者を理解するための条件

他者を理解しようとする時、私たちはしばしば自分のフィルターを通して相手を見ている。
心理学者ユングは、
自分自身が無意識下に抑圧している性質や感情を、他者の中に見てしまう」と指摘している。 

人に怒りを感じる時、
羨望を抱く時、
相手の言葉に過剰に反応する時——

その背景には、必ず“自分の内側の仕組み”がある。

例えば、
相手の弱さに苛立つのは、自分の弱さが許せていないからだ。
相手の優しさが眩しいのは、自分の心が優しさを求めているからだ。
相手の怒りが怖いのは、自分の中にも怒りが潜んでいるからだ。

ユング心理学では、これを 「投影」 と呼ぶ。
他者に抱く反応の多くは、自分の内側から来ている。

さらに、ドイツの哲学者カントは説く
「人間は目的であって手段ではない。」
自分を“目的”として扱えない人は、相手を“目的”として扱うことも難しい。

つまり、
自分を大切に理解できる人だけが、相手を深く理解できる。
——まとめれば、他者理解の限界は、自己理解の深さで決まるということだ。

幸せと“自分らしさ”の接点

幸せとは、外側から与えられる評価ではない。
比較や競争から生まれるものでもない。
幸せの源泉は、自分自身との“納得”にある。

ニーチェは
「自分自身を愛する者となれ」と語る。

ちなみに、ドイツの詩人・ゲーテも
「自分を愛する者とならなければいけない」と、同じことを言っている。

それほど、自分自身を愛するということは、とても難しく、大事な技術だということだろう。
それは、他者を愛するための前提条件である。
自分を誤魔化していると、他者へ向ける愛にも影が差す。

さらに、ハイデガーは人間をこう定義した。
「人間は存在を問う存在である。」
人は、ただ生きるだけの存在ではない。
自分は何者なのか、どう生きるのかを問い続ける——
その問いの深さが“らしさ”を形づくる。

自分の価値観を知り、自分のペースを知り、自分の幸せを言葉にできる人は、他者の幸せを真摯に受け止めることができる。

今日からできる、静かな実践のヒント

自己理解は、一気に深まるものではない。
小さな問いを重ねることで、ゆっくりと輪郭が浮かび上がってくる。
今日から実践できて、深い自己理解につながるものを厳選して記す。

① 行動のパターンを見る(自分は「何をしがちか」)

自分の本質は、言葉よりも“無意識に繰り返す行動”に現れる。

つい助けてしまうのは?
つい腹が立つ場面は?
つい頑張ってしまう瞬間は?

こうした“つい”は、価値観や信念の原石だ。

② 感情の動きを読み解く(喜び・怒り・悲しみ・不安)

心が動いた瞬間は、あなたの本質が顔を出している。
感情は「本当はこうしたい」のメッセージ。
“揺らぎ”の正体を見つめてみる。

強く心が動いたとき
なぜか引っかかったとき
ぐっと込み上げたとき
深く安心したとき

その裏には、あなたの“大事にしているもの”がある。

③ 人生の山谷を振り返る

キャリコンには馴染みのあるサビカスの手法だが、横軸に年齢、縦軸に感情のプラス・マイナスを置き、人生の山谷を書き出した上で考えてみて欲しい。

なぜその山が生まれたのか
なぜその谷が苦しかったのか
そこから何を学んだか

ここから “人生を貫くテーマ” が見えてくる。

④ 他者の言葉を借りる(鏡としての他者)

人は自分自身を完全には見られない。他者との関係でようやく姿が映る。

尊敬する人は、あなたのどこに価値を見ているか
苦手な人は、あなたのどの部分と衝突するのか
仲間はあなたのどんな姿に安心するのか

⑤ 言語化の旅を続ける(書きながら自分を知る)

私のようにブログの執筆を続けている方の場合、確度の高いこんな方法もある。

書き終わったあとに「何を書きたがっていたか」を確認する
文章に繰り返し出てくる言葉を抽出する
過去の記事との共通テーマを見つける

文章は、無意識の欲求や価値観の地図になる。
ちなみに私のこれまでのブログや話題を見ると、「人の痛みを丁寧に扱う」「組織を温かくする」「個を尊重する」というテーマが一貫して流れていることを認識した。

自分を知る旅は、他者を幸せにする旅である

私たちはつい「相手を理解すること」に急ぐ。
だが、そのスタート地点はいつも 自分の内側 にある。

自分を知る深さしか、相手を理解できない。

これは冷たい真理ではなく、むしろ希望である。
自分の影を知るほど、相手の影にも寄り添える。
自分の幸せを理解するほど、相手の幸せにも誠実でいられる。

哲学者キルケゴールはこう言った。
「人生は後ろ向きにしか理解できないが、前向きにしか生きられない。」

自分を理解することは、未来へ向かうための準備である。
そして、その旅はきっと——
あなたの大切な誰かの幸せともつながっていく。

その旅を、今日から歩み始めればよい。

筆者紹介:風を読む人事家
自動車業界で、人事etc.~海外子会社CEO~人事担当役員を経て当社へ。人事・組織論の長年の実践知を注入し、「社員の幸福感」と「経営へのインパクト」との両立に挑戦中。
週末のライフワークである人事・組織理論の読書の傍らで徒然なるままに書き溜めたブログです。
建設業のリアルな現場での実践知の共有や、人事・組織論の視点から世の中の矛盾や不条理を鋭く、時に皮肉を交えて切り取ります。
業種を問わずさまざまな企業の中で「なんかモヤモヤしてる」「組織の中で立ち止まってる」そんなあなたの思考に一石を投じるヒントがここにあるかもしれません。
2025年7月より当社代表取締役社長