社長ブログ/お役立ち情報
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#040 ポジティブ・ディスアドバンテージ——「不利」な場所に立って見えた景色
正直に言えば、大企業にいた頃の私は、この話を必要としていなかった。
ビジネスモデルは出来上がり、複数の固定客がいて、課題は打ち手に翻訳できた。多少の判断ミスでは会社は揺らがない。論理は通り、努力は報われ、「正しいこと」を言えば前に進んだ。
だから当時の私にとって、不利は「避けるべきもの」で、弱さは「克服すべきもの」だった。
だが——M&A後の小さな我が社を、創業者ではない立場で預かるようになってその前提は崩れた。
不利は避けるものではなく、引き受けた人の視界を変えるものだった。
逆境のただ中にいる人ほど、この感覚は説明より先にわかるはずだ。
本稿は、その“わかってしまった景色”について綴る。
「不利」を引き受けた人だけが、最後に辿り着く場所
世の中は「強み」に飢えている。キャリア論も、経営理論も、自己啓発も、口を揃えてこう言う。
強みを活かせ
勝てる場所で戦え
得意領域に集中しろ
もちろん、それ自体は間違いではない。
だが私は、現場で長く働くほど、別の確信が強くなっていった。
最後に効いてくるのは、強みではなく、“不利を引き受けた経験”のほうなのではないか。
本稿で語りたいのは、そのことだ。「ポジティブ・ディスアドバンテージ」
そしてその裏側には、以前の記事でも触れた 「ネガティブ・ケーパビリティ」—— “わからなさ”や“答えの出なさ”に耐え、拙速に結論へ飛びつかない力が、静かに流れている。
ポジティブ・ディスアドバンテージとは何か
ポジティブ・ディスアドバンテージとは、一時的には不利・遠回り・失敗に見える経験が、長い時間軸で見ると、その人の判断・関係性・姿勢を形づくる“強さ”になるということだ。
ここで大事なのは、よくある「逆境をバネにする」話とは違う点にある。
不利を“すぐ”強みに変えようとしない
不利に意味をつけて“成功物語”に加工しない
苦しい経験を、都合のいい教訓にまとめない
むしろ、しばらくの間は「不利のまま」耐える。もちろん、“あえて”ではない。そこに耐えられるかどうかが分かれ目になる。
ここで顔を出すのが、ネガティブ・ケーパビリティだ。「わからない」を、わからないまま持っていられるか。“納得できる説明”に急いで逃げないでいられるか。この態度が、ポジティブ・ディスアドバンテージを育てる土壌になる。
なぜ「不利」は、人を深くするのか
(1) 不利な人は、世界を単純化できない
順風満帆の人は、意思決定を単純化できる。「このやり方で勝てた」という成功パターンがあるからだ。
一方、不利を抱えた人は、単純化ができない。思い通りにいかない現実を知っているから、白黒で断じることに慎重になる。
結果として、判断が遅くなることもある。だがその遅さは、思考の怠慢ではない。目の前の現実の複雑さに対する誠実さだ。
(2) 不利な人は、他者を支配しにくい
成功体験が多い人ほど、無意識にこうなる。
「普通は、こうだよね」
「これが正解」
「自分のときはできた」
この言葉は、便利だ。
だが便利であるほど、他者の可能性を狭める。
不利を通過してきた人は、言い切れない。言い切れないからこそ、他者の事情を想像し、場に余白を残す。
その余白が、チームの呼吸を整える。
(3) 不利な人は、問いを持ち続ける
うまくいかなかった経験は、問いを残す。「なぜだ」「どこで外した」「自分は何を見落とした」——
問いが消えない。
だから、軽く結論に飛びつけない。答えを急ぐほど、現実が反撃してくることを知っているからだ。
この「問いの持続」が、やがて判断を深くする。
不利を「消そうとする態度」こそが弱い
ここは、少し厳しい話をする。
人は不利に置かれると、早くそこから逃げたくなる。だから不利を、すぐに「良い経験だった」に加工したくなる。
だが、私は思う。不利を急いで消す態度は、ときに自分の人生に、耐えられていない態度でもある。
「意味づけ」は、毒にも薬にもなる。早すぎる意味づけは、現実の痛みから逃げるための麻酔になる。
不利は、克服するものではない。しばらくの間、引き受け続けるものだ。
その時間の中でしか生まれない深みがある。
仕事と組織に現れる「ポジティブ・ディスアドバンテージ」
ポジティブ・ディスアドバンテージは、 スポーツや試験のように「勝った負けた」で見えやすい世界より、むしろ職場のような“人間関係の世界”で強く効いてくる。
例えば——
遠回りした管理職
評価されなかった時期を知るリーダー
火中の栗を拾う役割の人
彼らが場にもたらすのは、派手な成果よりも、次のような空気だ。
失敗を隠さなくていい空気
未完成の意見を置ける空気
「正しいけれど今じゃない」を選べる空気
この空気は、数字に表れにくい。 だが、ここが崩れると、どれほど優秀な戦略も空転する。
ビジネスの現場で起きている「評価のねじれ」
ビジネスの現場では、部下に対して
「もっと論理的に考えろ」
「結論から話せ」
「仮説を立てて動け」
と求める上司は多い。
それ自体は、間違っていない。問題は、その次である。
いざアウトプットが出てきたとき、上司が無意識に選んでいる評価基準が、自分の口で語ってきた基準と、食い違っているケースが多い。
論理的には正しい。でも、なぜか評価されない。
例えばこんな場面だ。
ロジックは通っている
データも揃っている
結論も明快
にもかかわらず、
「うーん、悪くないけど、なんか違うんだよな」 「もう一歩、踏み込んでほしい」
という評価が下される。
部下からすれば、当然こう思う。
「普段言ってることと、違うじゃないか」「論理的に考えろと言われたから、その通りにやったのに」
この不満は、単なる感情論ではない。評価の軸が、そもそも共有されていないことから生じている。
上司は、すでに「不利」を選んでいる。
多くの場合、上司が最終的に選んでいるのは、
まだ荒いが、現場の温度がある案
論理は未完成だが、人の動きが想像できる案
数字よりも、関係性の摩擦を減らす判断
つまり、論理的に最適な選択肢ではない。
ここで起きているのは、上司自身が無意識に
ネガティブ・ディスアドバンテージ
——あえて不利・未完成・曖昧さを含む選択をしている、という事実である。
だが、そのことを上司自身が言語化していない。
結果として、
求めるものは「論理」
評価するものは「肌感」「空気」「人の動き」
「ビジネス感覚」
という二重基準が生まれる。
強みを語りすぎる組織が、思考を浅くする。
このねじれをさらに強めているのが、「強み」「アセット」「勝ちパターン」を過剰に語る組織文化である。
強みを言語化すること自体は有益だ。 しかし、それが行き過ぎると、
未完成なアイデアが出せなくなる
仮説段階の思考が口にできなくなる
論理的に“整っていない”意見が排除される
結果として、
見た目は論理的だが、判断が浅い組織が出来上がる。
一方、上司自身はというと、最終判断では「強み」よりも、弱さ・不確実性・摩擦の少なさを選んでいる。
ここに、現場のフラストレーションが溜まる。
ポジティブ・ディスアドバンテージが効く瞬間
ポジティブ・ディスアドバンテージを引き受けてきた人は、
この構造に比較的早く気づく。
なぜなら、自分自身が
論理だけでは通らなかった経験
正解を出したのに、うまくいかなかった記憶
不利な判断をせざるを得なかった場面
を、数多く通過してきているからだ。
そのため、
「何を評価しているのか」を言葉にしようとする
論理と感情のどちらも、評価軸に含める
未完成な思考を、途中段階として認める
という姿勢を持ちやすい。
不利は、判断力を鈍らせるのではない。判断のレイヤーを一段深くする。
評価とは、「正解当て」ではない。
ビジネスの評価は、本来、正解にどれだけ近いか
ではなく、どれだけ現実に耐えるかを見る行為のはずである。
その現実には、必ず曖昧さも、感情も、未整理な部分も含まれる。
それを引き受ける覚悟を持つこと。そして、それを言語化して共有すること。
それができる上司かどうかで、部下の努力が「報われる経験」になるか、「理不尽な消耗」になるかが決まる。
ひと言で言えばこうだ。
ポジティブ・ディスアドバンテージとは、
「評価の裏側にある本音を、引き受け、言葉にしようとする姿勢」である。
それを持たない組織では、論理も、強みも、やがて人を黙らせる道具になる。
不利を抱えたまま、立ち続けるという選択
「強みを伸ばす」のは気持ちがいい。成果が出れば、自己肯定感も上がる。
周囲も喜ぶ。
だが、人生はしばしば、こちらの都合を選ばない。不利なポジション、報われない努力、伝わらない誠実さ。八方塞がりで思い通りにならない現実が、必ず来る。
そのとき、人は二つに分かれる。
不利を“無かったこと”にして急ぐ人
不利を抱えたまま立ち続ける人
後者は、短期的には報われない。しかし、不利を引き受けた経験は、いつか判断の深さとなり、関係性の厚みとなり、言葉の重みとなって立ち上がる。
それが、ポジティブ・ディスアドバンテージだ。
いま、もしあなたが八方塞がりで不利な状況にいるなら、無理に強みに変えようとしなくていい。無理に物語にしなくていい。ただ、誠実に引き受けたまま、立ち続ければいい。
いま、あなたが「論理」や「強み」を武器にしているなら、自問してほしい。
あなたが本当に評価しているのは、言葉にしている基準か。
それとも、言葉にできない“ビジネス感覚”か。
そして、その評価軸を、部下に共有したとき、 あなたの組織は強くなるだろうか。黙るだろうか。
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筆者紹介:風を読む人事家
自動車業界で、人事etc.~海外子会社CEO~人事担当役員を経て当社へ。人事・組織論の長年の実践知を注入し、「社員の幸福感」と「経営へのインパクト」との両立に挑戦中。
週末のライフワークである人事・組織理論の読書の傍らで徒然なるままに書き溜めたブログです。
建設業のリアルな現場での実践知の共有や、人事・組織論の視点から世の中の矛盾や不条理を鋭く、時に皮肉を交えて切り取ります。
業種を問わずさまざまな企業の中で「なんかモヤモヤしてる」「組織の中で立ち止まってる」そんなあなたの思考に一石を投じるヒントがここにあるかもしれません。
2025年7月より当社代表取締役社長
