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#006「失敗してもいい」って言ったの、誰だっけ?―「Fail Fast」ではなく「Try Fast」で“学ばない組織”を解体する話

はじめに:マイクロマネジメント風マウント文化、そろそろ解体しませんか?

「失敗を恐れない会社であろう!」「早くたくさん失敗しよう!」——。
でも、いざ現場がトライしようとすると、「なんでそれをやるの?」と詰め寄り、失敗すれば「お前たちは馬鹿なのか」とでも言わんばかりでネチネチ批判。

…そんな経営者、いますよね。静岡でも、浜松でも、全国どこにでも。

その手の経営者は大抵こうも言っていることでしょう、「神は細部に宿る」「マイクロマネジメントが大事だ」と。

確かに、細部へのこだわりは大切です。でも、それが過度な完璧主義にすり替わると、現場は「どうせやっても無駄だ」とスピードダウンしたり、挑戦しなくなります。結果として、失敗から学ぶどころか、学びの機会すら生まれない組織になってしまうのです。

「Fail Fast」ではなく「Learn Fast」の重要性

筆者が当社で最も誇らしく感じているのは、「学ぶ組織」へ進化中であることです。
当の本人たちはそんな自覚はまだないと思いますが、自覚が強まったらもっと楽しみです。
ふと気づいたのですが、誰も「早く失敗しよう」なんて言っていません。さらには「早く学ぼう」とも言っていません。でも、確かに高速での学びが根付き始めています。

この記事では、なぜ当社が「学ぶ組織」に進化しているのか、どうすれば「学びを結果に変える組織」になれるのかを深掘りしていきます。

「学ぶ組織」であるということ:学びを実践する文化

私たちの組織の“学ぶ組織”への進化に好影響を及ぼしていると思われる組織の行動を書き出してみます。

・ありたい姿を可視化して共有
・ありたい姿に近づくためのプロセス・一人ひとりの行動目標を定量化・可視化
・ミーティングで行動目標の達成状況をチームで確認
・その中で、成果を引き寄せた行動、失敗に繋がった行動を披露し討論
・対策を仕組化・ツール化し、チーム全員の次の実践に活かす

この大小のPDCAサイクルが、日々高速で回っています。

筆者が特に好感を持っているのは、

・今起きていることを実直に見つめようとする姿勢
・ギャップをどう埋めるかを、みんなで探ろうとする対話

…です。個人の失敗ではなく、会社の仕組みやツール、ノウハウの不足に焦点が当たります。
たとえば営業部では、受注・失注した案件について、なぜそうなったのかを喧々諤々と議論します。次にどう生かすかを真剣に考える。そこが「学び」が自然と根付いて見えるポイントです。

「Fail Fast」の限界と「Learn Fast」の可能性

「Fail Fast」は本来、「小さく素早く試して、うまくいかなければすぐに方向転換せよ」という意味です。しかし、以下のような誤解が生まれやすいのも事実です。

・失敗に鈍感になる
・学びが置き去りになる
・チームの士気が下がる

Fast=早い(ファスト)と、First=一番目(ファースト)の混在も、誤解を助長しているように思います。

一方、「Learn Fast」は、失敗を通じて何を学ぶかに焦点を当てます。

・目的意識が明確になる
・振り返りが習慣化する
・心理的安全性が高まる

前述の通り、「Learn Fast」の組織は、ありたい姿の達成 “First” を目指します。

個人のプレーを、組織の知見に変える

個人の挑戦が、個人のものにとどまらず、組織全体の学びに変わることも大切です。

・成功でも失敗でも「なぜそうなったのか?」をチームで考える
・「責任」ではなく「貢献」として挑戦を捉える
・「誰かがやってみたこと」が「次に誰かがやるときのヒント」になる

Try Fast文化:完璧よりもまずやってみる

Try Fast文化とは、完璧なプランよりも「まずやってみる」ことを重視する文化です。

完璧主義の場合、

・絶対に成功するプランが出来てからやる
・二度と失敗しない仕組みが出来てからやる

…となってしまいます。もちろん、人命や安全に関わることなどは完全である必要があります。

Try Fastの本質は、仮説思考と行動の早さ。完璧を待たず、合意した仮説をすぐに形にして実行し、そこから学ぶ。この姿勢が、組織全体の学習スピードを高めます。

リーダーが自らプロセスオーナーとなって実践

リーダーが自らファシリテートし、次のような行動を取ることが、学ぶ組織化の鍵だと感じます。

・失敗の原因への高い興味と、対策案が生まれた時の喜びを表現
・対策案の立案・行動への落とし込みを強くファシリテート
・即実践したメンバーを称賛し、行動修正のアドバイス
・背後から成功を後押しし、成功体験を引き寄せる
・成功は組織の学びの成果と捉える姿勢
・問いを立てる力を育てようとする風土の醸成

学びを結果に変えるための5つの仕組み

1.学びの可視化と共有
 - ありたい姿・プロセス・行動目標の可視化(OKRやKPIと連動)
 - ナレッジベースを整備し、組織で活用する仕組み

2.学びを行動に変えるプロセス
 - 学び→行動→成果のストーリー化とPDCAの高速回転
 - あらためて勉強会なんて悠長なこと言わず、会議中にラーニングセッションを設けてしまう

3.学びを評価・称賛する文化
 - 失敗とその原因をつまびらかに報告することを評価(Bad News “Fast”, Bad News “First”.)
 - 対策案が生まれた時の喜びを共有

4.学びと成果のつながりを測定
 - 学びを語る場を設け、定量測定と目標乖離の議論

5.リーダーが学びの実践者になる
 - リーダーが率先して学びを発信
 - 問いを立てる力を育てる

学びの流れを可視化してみると…

P:ありたい姿・プロセス行動目標の設定

D:個人の挑戦

C:チームでの振り返り・知見の共有

A:組織での実践知として行動目標にフィードバック

この流れが自然に回っている組織は、学びを結果に変える力が強いと感じます。

顧客の真価値創造へ進化するPDCA

ご紹介してきた私たちのPDCAは、最近、単なる業務改善ではなく、顧客の「真の望み」を探るプロセスに進化していると感じます。

私たちが解体する建築物は、公共施設、民間施設、一般住宅など多岐にわたり、発注者となるお客様も、自治体、ゼネコン、不動産業者、個人の家主など多様です。

「安さ」は当然のこととして、顕在・潜在問わず、お客様が本質的に望まれていることを的確に捉えて望みを叶えて差し上げることを目標に掲げたプロセス・行動の方が、近道なのではないかと考えるようになりはじめているとも感じます。PDCAが、顧客の真価値創造のサイクルへと進化してきたのです。

また、組織としての実践知を自分の行動にフィードバックする際に、自ら工夫を加えるメンバーもみられるようになってきました。学びの成果を最大化しようとする行動が自然と生まれているのです。

なんとも誇らしいことです。

静岡・浜松から、組織の“解体”と再構築を

私たちは静岡・浜松という地域に根ざしながら、“解体工事”を積み上げてきました。

今度は組織においても「こうあるべき」という固定観念を解体し、Tryを通じて新しい文化を築いていきたいところです。

もしあなたが今、会社でモヤモヤしているなら、そのモヤモヤは、組織の“解体”が必要なサインかもしれません。

まとめ:学びは“動詞”である

学びは、記録するものでも、保存するものでもなく、「動かすもの」です。
知識を得たら、すぐに試す。試したら、すぐに振り返る。
そのサイクルを、チームや組織全体で自然に回していくことが、「学びを結果に変える組織」への一番の近道だと思います。

おわりに

「早く失敗する」よりも、「早く学ぶ」。
そして、学びを記録にとどめず、Tryを通じて実践に変えていく。
そんな文化が、私たちの組織には芽吹き始めています。

これからも、Try Fastで、学びを結果に変えていく組織でありたい。
そして、静岡・浜松から、もっと面白い組織の未来をつくっていきたい。
そう強く思っています。

筆者紹介:風を読む人事家(火曜日・金曜日ブログ担当)
異業種で人事・総務の世界に身を投じて30年。社員の幸福感・血の通った組織・業績と経営へのインパクトに拘って、あらゆる人事・組織の理論と実践を行き来しながら、組織という名の“生き物”と格闘してきた。建設業に飛び込んで半年。今日も人と組織の“幸福感”を観察中。
週末のライフワークである人事・組織理論の読書の傍らでブログを書き溜めて火曜日・金曜日に予約配信中。
建設業のリアルな現場でも実践し得られたことの共有や、人事・総務の視点から、世の中の矛盾や不条理を鋭く、時に皮肉を交えて切り取ります。
業種を問わずさまざまな企業の中で「なんとなくモヤモヤしている」「組織の中で立ち止まっている」そんなあなたの思考に一石を投じるヒントがここにあるかもしれません。