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#027 “分類”という檻を解体せよ——カテゴライズの外にある未来

「みなさん、理系・文系という大学でのたった4年間の分類で、この後、数十年もの間、理系人材、文系人材の枠にハマって生きる、そんなもったいない人生を送らないでください。」

前職で人事として毎年入社式に同席していた頃だった。その会社を世界的な企業に伸し上げた当時の社長が、毎年毎年の祝辞で必ずこう問いかけていた。 
感銘?共感?ちょうどいい言葉は見当たらないが、強く心に残る言葉のひとつだ。
あらためて思う、この問いは「分類」というものの本質を突いている。

安心という甘い毒

人は分類されることで、ある種の安心を得る。
「私は文系だから数字が苦手」「理系だから文章は不得意」——こう言えば、努力しなくても許される気がする。
分類は、言い訳の盾にもなるし、居場所の証にもなる。
しかし、その安心は同時に可能性の扉を閉ざす。
分類は、挑戦の芽を摘むラベルになりやすい。
たとえば、文系出身の人が「研究開発に興味がある」と言ったとき、周囲はどう反応するだろうか。
「え、文系なのに?」という言葉が、無意識に飛び出す。
その一言が、本人の心にブレーキをかける。
分類は、他人の目を通して、自分の未来を狭める力を持っている。

分類が組織に与える影響

当時、その社長の言葉の通り研究所にも文系が配属されていた。
“多様性”という言葉が飛び交わない時代でありながら、型にはまらない斬新な発想を生み出していた。
その社長はこうも言っていた。「素晴らしい発案は、熟知した人、ちょっと知ってる人、全く知らない人とで、ざっくばらんに知恵を出し合ってこそ生まれる」と。30年近く前から多様性の意義を見抜かれていた。
理系の論理と文系の感性がぶつかり合い、時に摩擦を起こしながらも、新しい価値が生まれていた。
しかし、ある時から研究所への配属は理系“であるべき”となった。マイノリティとなっていった文系の声は「素人の意見」というバイアスにのみ込まれ、文系であることで肩身が狭い就業生活を送っていると聞いたことがある。

組織は型通りで画一的なアウトプットを安定的に出す体質に変わっていった。それが目的ならば功を奏したことになる。
企業は競合との差別化が競争力の源泉、そして社会課題を解決する源泉。真価が問われる時が来るかもしれない。

あなたの組織は、分類によって可能性を閉ざしていないだろうか?
安心のために、挑戦を犠牲にしていないだろうか?

脳は“枠”を欲しがる

人間は生存本能として、どっちつかずの状態に耐えられず「予測可能性」を強く求める。分類は、この予測可能性を高めるための仕組みだ。「あなたはこういう人」「この枠に属している」と言われると、行動や結果が見通しやすくなるため、脳は安心感を覚える。
社会心理学では、これを認知的閉鎖欲求と呼ぶ。人は不確実性を嫌い、曖昧さを減らすために分類を求める。分類は、複雑な世界をシンプルにする道具であり、脳にとってはエネルギー効率の良い選択だ。
しかし、この仕組みには落とし穴がある。分類に頼りすぎると、脳は「未知への挑戦」を危険とみなし、回避するようになる。結果として、成長の機会を失い、可能性を自ら閉ざしてしまう。

あなたは、安心のためにどれだけ挑戦を諦めているだろうか?
分類という安全装置を外したら、どんな未来が見えるだろうか?

効率という名の罠

採用や評価で“分類”を使う企業は多い。 
「理系は技術職」「文系は営業職」——こういった分類を前提にした採用・配属・配置転換フローは効率的で、逆に逸脱は非効率を呼ぶ。環境学部?情報デザイン学部?といった文理あいまいな学部は人事担当者の主観でこっそり文理を分類していることだろう。そもそも学生自身がその分類をしなければ「✕✕ナビ」だのといった就活を優位に進める商売に乗ることが出来ない。その効率は、変化に対応できない人や組織を生む。 
AI時代、境界線はますます曖昧になっている。しかし、営業職がデータ分析が必要なことも、技術職が顧客との対話力が求められことも今に始まったことではない。
分類に依存する企業文化は、ゆでガエルのように競争力を失っていくことが、ここまでの文脈でご理解いただけたであろうか。

挑戦は枠の外にある

このような記事を書いているくらいだから、私は当の昔に「理系だから」「文系だから」という言葉は捨てた。
むしろ、枠に嵌められて過小評価され揶揄される憤りをパッションに変えてきた。
他人に嵌められた枠は、本当に自分の限界なのか?
枠を超えた瞬間、世界は広がる。 
文系出身のエンジニア、理系出身の小説家——彼らは分類を壊したからこそ、新しい価値を生み出している。

分類を支配する者が未来を創る

分類を完全に否定する必要はない。むしろ、分類を道具として使いこなせばいい。
「今はこの枠で安心する。でも、必要なら枠を壊す」 
その柔軟さが、未来を切り拓く。
分類に支配されるのではなく、分類を支配する。
その視点を持つだけで、あなたの可能性は一気に広がる。
カテゴライズに縛られない人材こそ、未来を創る。

今日、あなたが壊すべき枠は何か?

分類は、私たちに秩序と安心を与える一方で、可能性を奪う危うさも秘めている。
だからこそ、分類に支配されるのではなく、使いこなすこと。 
その選択が、あなたの未来を決める。

今日、あなたが解体すべき“枠”は何か?
その解体工事が、あなたの未来を大きく変える。

筆者紹介:風を読む人事家
自動車業界で、人事etc.~海外子会社CEO~人事担当役員などを経て当社へ。社員の幸福感と、業績と経営へのインパクトとの両立に拘って、あらゆる人事・組織の理論と実践を行き来しながら、組織という名の“生き物”と格闘してきた。フィールドを建設業界に移し、今日も人と組織の“幸福感”を追求中。
週末のライフワークである人事・組織理論の読書の傍らで徒然なるままに書き溜めたブログです。
建設業のリアルな現場でも実践し得られたことの共有や、人事・組織論の視点から、世の中の矛盾や不条理を鋭く、時に皮肉を交えて切り取ります。
業種を問わずさまざまな企業の中で「なんとなくモヤモヤしている」「組織の中で立ち止まっている」そんなあなたの思考に一石を投じるヒントがここにあるかもしれません。
2025年7月より当社代表取締役社長