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#030 リーダーシップは多様でイイ——鬼か仏かを超える自分らしさ

女性管理職にもいまだ影を落とす昭和の「鬼軍曹」像

キャリアカウンセリングに携わっていると、女性管理職から「うまく立ち回れていないのでは」という不安を聞くことが多い。さらに、その不安の背景には「管理職は泣き言を言わず、強力なリーダーシップで率先垂範すべき」という思い込みがある。そのリーダシップスタイルを追い求めるあまり、本当の自分のスタイルとのギャップに苦しむケースが少なくない。カウンセリングの結果、自分らしくてイイ、自分らしい方がイイと気づかれることが多い。

「管理職になりたくない」問題

「管理職になりたくない」という声は昔からある。最近増えているとも聞くが、私自身も当時はなりたくなかったので、増加傾向かどうかは定かではない。
ただ、管理職として組織の力で大きなことを成し遂げ、社会に好影響を与える効力感は、メンバーひとりの力の比ではない。管理職に推挙される人は、すでにそうした実績や片鱗を示しているはずだ。
それでも「管理職になりたくない」と思う理由は、前述の通り、思い描く管理職像が苦痛だからだろう。強引に結果を出す、泣き言を許さない、そんな昭和的なイメージを自分に重ねると、息苦しさしかない。
ちなみに私は、管理職になる人に必ずこう伝えてきた。
「今のあなたのありのままが“管理職”に値する魅力があるから登用されたのであって、人として変わる必要はないよ」
この言葉に救わたと聞くこともあったが、私は本気でそう思っている。

リーダーや管理職の役割とは何か

本記事の本質を語る上で、まずこの定義を明確にしておきたい。
リーダーや管理職の役割とは何か。それは、経営の外部環境や経営状態が常に変化する中で、組織の構成員の特性を踏まえ、状況に「適応」させながらアウトプットを最大化することだと考えている。
この視点に立てば、理想のリーダーシップスタイルが画一的でないことは明らかだ。状況は常に変わる。だからこそ、リーダー自身がその変化に合わせて「適応」し、必要なスタイルを柔軟に繰り出すことが求められる。
リーダーシップとは、固定された型ではなく、状況選択の技術なのである。

二極化するリーダー像への違和感

私はこれまでのキャリアの中で、世間でいう「鬼軍曹型」リーダーの“後釜”を務めることが多かった。めぐり合わせか、はたまた火消し・鎮静化か。いずれにしても私はありのままの自分で任に当たることを信条としている。そのため、ある断片を切り取られ「もっと鬼になれ」「優しすぎる」といった指摘を受けることがしばしばあった。いわば私のことを「仏軍曹型」とでも見立てていたのだろう。
しかし、私はこの「鬼か仏か」という二極化された見方と、どちらかの型に嵌められることに、強い違和感を覚えてきた。
リーダーシップとは、そんな単純な分類で語れるものではなければ、性格診断でもない。状況に応じて必要なスタイルを柔軟に使い分ける力こそが、真のリーダーシップだと信じている。

動機づけ理論から見る多様なスタイル

ここで、私が最も腹落ちして実践を心がけているハーバード大学の心理学者デイビッド・マクレランドと弟子たちの理論を紹介したい。
マクレランドの理論が示す重要なポイントは、「組織風土」が構成員の動機に強く影響するということ。そして、その組織風土は自然にできるものではなく、リーダーのマネジメントスタイルによって形づくられることを実証している。
つまり、リーダーの行動が社員のやる気を左右する組織風土を形成し、ひいては組織の業績に直結することを実証したのである。
「社員の幸福」×「経営インパクト」の両立に拘る私には、業績への連動まで実証された何より心強い理論だ。

組織風土の6つの評価軸とは?

組織風土は、次の6つの観点で測ることができるとしている。

1. 方向性の共有
組織の向かうべき方向性や、その中で期待される役割を明確に理解している度合い

2. 基準の明示
高い目標、よりよい仕事を追求しようという意識が組織内に浸透している度合い

3. 当事者意識
部下が裁量を与えられ、当事者意識を持てている度合い

4. 評価・処遇
職員の貢献が上司から適正に評価され、人事評価制度の運用に納得感がある度合い

5. 組織の柔軟性
同僚や他部署と、状況に応じて柔軟に連携できるかどうか、仕事を実行しやすい環境が整備されている度合い

6. 組織の一体感
組織内に一体感があり、部下が組織に対してコミットメントを感じている度合い

リーダーシップは一つじゃない——5つの型とは?

組織風土の各軸に直接影響する5つのリーダーシップスタイルは次の通りである。

1. ビジョン型 → 方向性の共有と基準の明示を高める

2. 関係重視型 → 組織の一体感を強化

3. 民 主 型 → 当事者意識と組織の柔軟性を促進

4. 率 先 型 → 基準の明示を引き上げるが、過剰だと柔軟性を損なう

5. 育 成 型 → 当事者意識と評価・処遇の納得感を充実させる

つまり、リーダーシップのスタイルが、組織風土の質を左右し、メンバーの動機づけに直結する。

リーダーシップは使い分けが鍵

当然この理論の建て付けから言えば、6つの組織風土の評価軸がいずれも高位で保持されていれば業績も良いということになる。しかし最初から全てのリーダーシップスタイルを器用に繰り出せる訳がない。グループリーダー→係長→課長→部長→本部長→役員→社長…と、職位が上がり守備範囲が拡大する過程や様々なプロジェクトの中で多用しながら、そして失敗も繰り返しながら習得していくものだと思う。
どのスタイルが「正解」かではなく、状況に応じて最適なスタイルを選び、組み合わせることがリーダーの腕の見せどころだ。
危機のときは率先型、変革期にはビジョン型、チームの結束が必要なときは関係重視型——こうした柔軟さが、組織の風土を健全に保ち、メンバーのやる気を引き出す。
リーダーのスタイルは、単なる個性ではなく、組織文化をつくる“起点”だ。

リーダーシップスタイルを状況に応じて使い分ける技法

組織を導くリーダーのスタイルは、単なる性格や好みではなく、状況に応じて戦略的に選択することが肝要だ。ここでは、5つのリーダーシップスタイルを、実践的な視点から紹介する。
1. 指示命令型:火急の場面で光る「司令塔」
「言った通りにやれ」。このスタイルは、明確な指示と厳密な進捗管理を軸に、混乱を防ぎ、迅速な対応を可能にする。
2. ビジョン型:未来を描き、共感を生む「羅針盤」
「なぜ、それをやるのか?」という問いに答え、メンバーの心に火を灯すスタイル。変革期や新規事業の立ち上げでは、目的地を示し、そこに至る道筋を語る力が組織を動かす。
3. 関係重視型:人を中心に据える「絆の架け橋」
「まず人、次に仕事」。成果よりも信頼を優先し、メンバーとの情緒的なつながりを築くスタイル。組織の安定や定着率の向上に寄与し、長期的なチーム力を育む。
4. 民主型:多様な声を束ねる「合議の舵取り」
「みんなで決めよう」。メンバーの意見を尊重し、意思決定に反映させるスタイル。創造性や多様性が求められる場面では、集合知が新たな価値を生み出す。
5. 率先型:背中で語る「先陣の旗手」
「まず自分がやる」。自ら模範を示し、 行動でチームを牽引するスタイル。困難な局面や未知への挑戦では、リーダーの覚悟が周囲の勇気を引き出す。
6. 育成型:未来を託す「人づくりの匠」
「今すぐの成果より、未来の可能性」。部下の成長に焦点を当て、時間をかけて指導するスタイル。次世代リーダーの育成や、持続可能な組織づくりに欠かせない。

それぞれのスタイルには、発揮すべき「場面」と「目的」がある。リーダーシップとは、状況に応じて最適なスタイルを選び、使い分ける「状況選択の技術」と言える。
ちなみに1. 指示命令型 と 5. 率先型 のみを多用する人が「鬼軍曹」型と称される。

若手へのメッセージ:「鬼か仏か」ではなく「状況診断と判断力」

次世代リーダーに伝えたいのは、「型」より「判断」を磨いてほしいということだ。鬼型か仏型かで悩む時間があるなら、状況を診断する目を育ててほしい。
失敗は投資だ。仮説→実行→学習の速度で勝負してほしい。リーダーシップは才能ではなく、設計と反復で強くなる。
私の経験則だが、グループリーダー→係長→課長→部長と守備範囲が広がり、権限が大きくなるにつれて、ビジョン型(未来像を示し、人を鼓舞する)を多用できるようになる。そして、人としての年輪とともに、関係重視型・民主型・育成型の技に磨きがかかっていく。そこには、人間性そのものが現れる。
だからこそ、型に縛られず、自分のスタイルで心を通わせ、実行を積み重ねてほしい。

自分らしくてイイ、人間くさくてイイ

「#025『わからない…』と語れる職場は強い」の記事では、「わからない」と率直に弱さを見せることで、周りがどんどん助けてくれ、最高のアウトプットにつながった経験を紹介している。

「わからない」よりもっと切実な「助けて!」と職場で言える人は、実は本当の強さを持つ人だと常々感じている。人は、その人の人柄や行いに魅力を感じているからこそ助ける。計算高い人なら「裏があるのでは」と助けることを躊躇するし、強さを主張している人なら「自分が全力で助けなくてもいいか」と思う。普段から母親のような無償の愛で周囲を助けている人なら、ものすごい「助けます!」が結集することだろう。
純粋に弱さをさらけ出して「助けて」と言うことは、もはやリーダーシップの型ではない。普段から人の心に寄り添って、ありのままの自分で当たれば良いのである。

個性を活かしつつ、再現性あるリーダーシップの未来へ

「管理職にはなりたくない」。そう言われる背景には、強引なリーダー像がある。しかし、私が理想とするリーダーは、自分らしさを自然に繰り出し、「わからない」「助けて」と素直に言える人。そして、状況を読み、複数のスタイルを自在に操り、短期・長期の成果を両立させる。それは崩壊例の多い“カリスマ”に依存しない、再現性と持続性のあるリーダーシップである。
組織の誰もが、状況に応じてスタイルを選び、小さく試し、学び、共有できるようになれば、リーダーシップは属人の技から組織の資産に変わる。私はその未来を信じている。

あなたはどんなリーダーシップを描くのか?

成功体験も失敗体験も、すべてが自分らしさを知るための材料だ。
まずは一歩、小さな実験から始めてみて欲しい。

筆者紹介:風を読む人事家
自動車業界で、人事etc.~海外子会社CEO~人事担当役員を経て当社へ。人事・組織論の長年の実践知を注入し、「社員の幸福感」と「経営へのインパクト」との両立に挑戦中。
週末のライフワークである人事・組織理論の読書の傍らで徒然なるままに書き溜めたブログです。
建設業のリアルな現場での実践知の共有や、人事・組織論の視点から世の中の矛盾や不条理を鋭く、時に皮肉を交えて切り取ります。
業種を問わずさまざまな企業の中で「なんかモヤモヤしてる」「組織の中で立ち止まってる」そんなあなたの思考に一石を投じるヒントがここにあるかもしれません。
2025年7月より当社代表取締役社長