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#039 キャリアは“偶然”が強くする——正解を求めると遠回りする理由

前向きになれないのに、前向きに考えろと言われる——それがまた苦しい。
そんな時に必要なのは元気ではなく、「再起可能なサイズでの一歩」だ。
本稿では、偶然の出来事を“成長”に変える方法をキャリア理論で綴っていく。そして「偶然を増やす5つの態度」と「点に意味を与える方法」を紹介しようと思う。


若い人たちとキャリアの話をしていると、よくこんな言葉を耳にする。

「ロールモデルが欲しい」

そして、その続きに、少し小さな声で、こう言われることがある。

「このままでいいのかわからない」

「自分には武器がない気がする」

……大丈夫。そう思うのは、あなたが弱いからじゃない。 むしろ、真面目で、慎重で、失敗を避けようとする“責任感の強さ”の裏返しだ。

ただ、ここで一つだけ、先に伝えておきたい。

キャリアは、想定通りに進むことのほうが少ない。

だから、いま不安なあなたに必要なのは「完璧な正解」ではなく、 想定外と出会ったときに折れない“持ち方”だ。

キャリア理論に基づいて綴っていこうと思う。


キャリアは出来事が連れてくる

もちろん、計画を立てることは大切だ。 でも、人生は計画書どおりに進まない。 むしろキャリアを形づくっているのは、こういう出来事だ。

· 偶然の出会い
· 予期せぬ異動
· 想定外の失敗
· 断れなかった仕事

こうした出来事の連続で、人は少しずつ変わっていく。

私自身もそうだった。 九州や海外への予期せぬ転勤。 総務・人事というバックオフィスの専門性から、海外子会社経営という全く異なる領域への大転換。どれも、事前に描いていたキャリアプランにはなかった。

正直、渦中ではこう思った。

· 「畑が違うじゃん!」

· 「これまでの(これからの)経験は意味があるの?」

でも今なら言える。 あの想定外がなければ、今の自分はいない。

自動車業界から建設業界へ、大企業から中小企業への転身などという選択肢は生まれなかった。


偶然は、あなたの中の“知らない強さ”を起こす

慎重派の人ほど、こう考えがちだ。

「今の得意領域から外れたら、価値が下がる」
「別の部署の下っ端から登り直しじゃん」

でも、実際は逆だ。

計画されたキャリアの怖さは、 「自分が知っている自分」だけで人生を組み立ててしまうことにある。

人は、自分のことを驚くほど知らない。

· やってみて初めて気づく強み
· 追い込まれて初めて立ち上がる胆力
· 役割を与えられて初めて芽生える当事者意識

こうしたものは、 安全なレールの上では、ほとんど発見されない

偶然の出来事は、ときに残酷だ。 準備も心構えもないまま、環境だけが先に変わる。
でも、だからこそ—— 自分でも知らなかった才能が、そこから顔を出す。


偶然を「成長」に変えるのは“勇気”ではなく「小さな一歩」

ここが本稿で、いちばん伝えたいところだ。

慎重な人は「偶然を活かせ」と言われても、こう感じるかもしれない。

· そんなに前向きになれない
· そもそも勇気が出ない
· 失敗したら取り返しがつかない

わかる。 だから、前向きさは要らない。 必要なのは、大きく跳ぶことではなく、小さく踏み出すことだ。

偶然は、放っておけばただの“事故”で終わる。 偶然を成長に変えるには、必要な力がある。 私はそれを、引き受ける力と呼びたい。

· 目の前の出来事を、いったん自分の手で受け取る
· できることを小さく試し、学びの回収を続ける
· その経験に、自分なりの意味を与える

「偶然を味方につける」とは、運任せやギャンブルではなく、 偶然に対して“能動的に”関わる態度のことだ。

キャリア理論家クランボルツらは、この世界観を「計画された偶発性(Planned Happenstance)」として語っている。

“Unplanned events are not only inevitable, they are desirable.”
(予期せぬ出来事は避けられないだけでなく、望ましいものでもある)


そして続けて、偶然と付き合うには「受け身ではなく、準備が要る」と言う。

“Clients must plan to generate and be receptive to chance opportunities.”
(偶然の機会を生み出し、受け取るために、計画する必要がある)



ここで言う「計画」とは、立派なキャリアプランのことではない。 偶然が来たときに、掴める自分でいるための“行動の下ごしらえ”だ。

クランボルツは、偶然を捉えるスキルとして次の5つを挙げている。

· 好奇心:新しいことへの学び
· 持続性:続ける。一回で決めない(合わなければ調整する)
· 柔軟性:変化を取り入れる。0か100かで判断しない(グレーを許す)
· 楽観性:達成できると考える(希望を持つ)
· 冒険心:行動を恐れない。リスクテーキング

ポイントはこれだ。 あなたに必要なのは“陽気さ”ではない。再起可能なサイズでの一歩だ。


キャリアには「物語」が生まれる——人生は点(連続する刹那)でできている

アドラー心理学を扱った『嫌われる勇気』では、人生を「線」ではなく、点の連続(連続する刹那)として捉える視点が語られる。
人生とは
過去→現在→未来へと流れる線ではなく、
現在という“点”が、その都度立ち上がっているだけ、人生は「いま・ここ」の積み重ねであり、人はいまの目的に沿って、過去を意味づけ直しているということだ。

だからこそ、「人生は点の連続だ」とわかったとき、次の問いが立ち上がる。

なぜ人生は“線”に見えてしまうのか?

それは、人が無意識に、過去からの物語を固定し続けてしまうからだ。
つまり、

・あの異動は失敗だった
・あの転勤で人生が狂った
・あの経験があるから自分はこうだ

こういう“線の語り”を、変えないように握りしめる。

だが、キャリアの現実は違う。
起きる出来事は偶然で、点としてやってくる。
そして、それをどう結ぶかは、いつでも編集可能だ。

ここで、キャリア構築理論のサビカスの視点が効いてくる。
彼は、キャリア相談の場に来る人々についてこう述べている。

“When individuals seek career counseling, they have stories to tell about their working lives.”
(人は、働くことを通して、出来事を経験し、意味づけし、語り直していく)


· あの転勤があったから視野が広がった
· あの失敗があったから、人に優しくなれた
· あの役割変更が、自分の軸を鍛えた

これは事実というより、自分が選び取って得られた経験への意味づけだ。

だから、いまのあなたが抱えている不安や迷いも、 「いまは点」に見えるだけで、あとから線になる。

偶然を「事故」で終わらせるか、「物語」に変えるか。 その違いが、キャリアの深みを決める。

人は、点を経験し、あとから意味を与え、物語として語り直す。
つまりキャリアとは——

・偶然(点)でできていて
・意味づけ(編集)で物語になる

この両方でできている。

だから、いまのあなたが抱えている不安や迷いも、「線の途中で迷っている証拠」ではない。
ただ、ひとつの点として、そこに立っているだけだ。それでも、キャリアには「物語」が生まれる——今の不安も、いつか意味になる。


予期せぬ出来事は「転機」になる——モヤモヤは、能力不足じゃない

「転機」とは、劇的な成功体験のことではない。 むしろ、日常の前提が静かに揺らぐ瞬間だ。

シュロスバーグのトランジション理論では、転機(トランジション)は次のように定義される。

“any event or non-event resulting in changed relationships, routines, assumptions, and roles”
(人間関係・日課・前提・役割が変化する出来事、あるいは出来事が起こらないこと)

転勤も、異動も、専門性の転換も、まさにここに入る。
そして重要なのは、転機は「出来事」そのものよりも、 その出来事が自分の内側に起こす再編集にこそ本質がある、ということだ。

だから、変化の渦中で感じるモヤモヤは、能力不足の証拠ではない。 転機に立っている人の、自然な反応である。


ロールモデルは「レール」ではなく「勇気の燃料」

ロールモデルを否定したいわけではない。

ただし、

· 同じ道をなぞるためのモデル
· 未来を固定するための見本
としてロールモデルを使うと、現実とのズレに苦しむ。

むしろ大切なのは、

「この人も、想定外の連続の中で今に至っている」

という読み方だ。

あこがれの先輩の型通りに完成されたかに見える姿ではなく、あこがれの先輩にも、迷い、揺れ、引き受け、意味づけてきたプロセスがあることに目を向けてほしい。

ロールモデルとは「答え」ではない。 自分の偶然を引き受ける勇気をもらうための“燃料”である。


若者たちへ——いまのあなたに渡したい“実践”

キャリアに、完璧な設計図は存在しない。 あるのは、

· 目の前に起きた出来事をどう引き受けるか
· 偶然にどう意味を与えるか
· 自分をどう更新し続けるか

その積み重ねだけだ。

もし今、

· 想定外の場所にいる
· 思い描いていた道から外れた
· 自分の強みがわからない

そう感じているなら、それは失敗ではない。 キャリアが、本気で動き始めているサインかもしれない。

宿題として、本稿で記したことの小さな実証実験を今週3つやってみて欲しい。そして自分の中の化学反応を捉えてみて欲しい。

1. 初めての人に1回だけ話しかける(雑談でいい)
2. いつもと違う道で通勤する(景色を楽しんで)
3. やったことのない誰かの作業を3分だけ手伝ってみる


最後に、恒例の問いを置いて筆を置く。

目の前にある出来事を、あなたは「事故」として処理しますか?

それとも、いつか語れる物語として引き受けますか?


その意味づけが、いつか線になり、物語になる。

レールの上を歩かなくていい。
偶然を恐れなくていい。

あなたはいま、目の前の点にどんな意味を与えるだろうか。
人生は点の連続だ。 だが、その点をどう結ぶかは、いつだって自分に委ねられている。



(参考)本稿を支える理論(キャリコン学科試験でおなじみ)

計画された偶発性(Planned Happenstance):クランボルツの理論。偶然を「望ましい学習機会」とみなし、能動的に機会を増やす考え方。

キャリア構築理論(Career Construction):サビカスの理論。キャリアを“物語”として捉え、経験の意味づけと語り直しを重視する考え方。

・トランジション理論(Transition):シュロスバーグの理論。転機を、役割・関係・日課・前提が揺らぐ「出来事/非出来事」として捉え、適応資源(4S:Situation(状況)・Self(自分)・Support(支援)・Strategies(対処))を見立てる枠組み。

・アドラー心理学(『嫌われる勇気』):人生は「線」ではなく「点(連続する刹那)」として捉え、「いま・ここ」に焦点を当てる姿勢を促す。

筆者紹介:風を読む人事家
自動車業界で、人事etc.~海外子会社CEO~人事担当役員etc.を経て、2024年当社へ。2025年7月より当社代表取締役。
長年培ってきた人事・組織論の実践知を、建設業のリアルな現場にも注入し、社員の幸福の追求と経営との両立に挑戦中。
人文科学を経営に注入した実践知を週末ブログにしたためて発信中。
業界や企業の枠を超えて、組織の中で「なんとなくモヤモヤしている」「思考が立ち止まってしまっている」——そんな働く人の心にそっと寄り添い、心が少し軽くなり、前に進むためのヒントとなれば幸いである。