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#045 私が恐怖支配をしない理由——経営資源は、無尽蔵に掘り出せる

本稿に記す考え方は、世の経営者において圧倒的少数派であり、「甘い」「生温い」という声が聞こえてくることを承知の上で、記す。

恐怖で人を動かす経営は、
一見すると、効率的に見える。
だがそれは、最も価値のある資源を捨てている可能性がある。

ここでいう「恐怖支配」とは、何もパワハラめいたマネジメントスタイルだけではない。メンバーの行動の動機が、不利や危害を察知し、気持ちの逃避や抗う準備によるものといった、ネガティブな感情や心理状態に至るスタイルをいう。言動のみならず、トップ自らが無自覚に作り出すバイアスも含めての話だ。

経営資源は、本当に有限なのか

経営資源といえば、一般的にはヒト・モノ・カネ・時間・情報だろう。
どれも重要だが、いずれも物理的な限度があり、管理の対象になりやすい。

私がマネジメントにおいて恐怖支配を選ばない理由は、ここにある。
限られた資源を締め付けて最大化する経営ではなく、
無尽蔵に掘り出せる資源を引き出す経営をしたいからだ。

人の内側に眠る、無尽蔵の資源

人の内側には、数値化できない経営資源が眠っている。

それは、
他者を尊重しようとする姿勢であり、
自分の言葉で関係を結ぼうとする意思であり、
失敗から逃げずに引き受けようとする態度だ。
社会という共同体をより良くしようとする志もだ。

思いやりや礼儀は、その現れにすぎない。
本音で語る勇気も、約束を守る誠実さも、
自分の行為に責任を持とうとする人間の、自然な振る舞いである。

これらは、使ったら減ってしまう資源ではない。
求めるほどに個人の中で育ち、
周囲との関係を通じて、さらに大きくなっていく。
減るどころか、メンバーのアウトプットは足し算ではなく、掛け算で組織内に増殖していく。

恐怖は、人の中身を動かさない

恐怖は人を動かすが、人の中身までは動かせない。

恐怖で動いた人は、指示には従う。
だが、考えなくなる。感じなくなる。
問いを持たなくなる。

残るのは、正解待ちと責任回避だ。
恐怖は短期的な統制をもたらすが、
人の内側にある無尽蔵の資源を、静かに枯らしていく。

「自分の人生のミッションは何か」という問い

僕が大切にしているのは、
「自分の人生のミッションは何か」
という問いに、本人自身が向き合うよう促していくことだ。

答えを用意することはしない。
だが、この問いを持たずに働くことにも、私は与しない。

その人なりの人生のミッションと、
企業としてのミッションとがどこで重なりうるのか。

それを、仕事の中で照合していく。

ここが結びついたとき、
外から与えなくても、
人の内側から力が湧き出してくる。

一度、人は迷走する

もっとも、このプロセスは一直線ではない。
とくに、前職や前上司の恐怖支配に慣れてきた人ほど、
自由に戸惑う。

経験上、そのような人は一度、
糸の切れた凧のように迷走する。

何をしていいかわからず、
自分で決めることが怖くなり、
再び誰かの指示を求めたくなる。
失敗や結果の悪さは他責か自虐。
アドラーの目的論が示す通り、人は「やらない」と決めた後で、やらない理由を後付けする。

私はこれまでどんな組織に移籍しても、一時的にそのような人が発生することを許容してきた。
それは、恐怖から離れ、
自分の足で立とうとする過程だからだ。

組織の空気が変わる瞬間

そして、組織の中の大多数が、
自らの内側にある資源を少しずつ掘り始めると、
空気が変わる。

問いが増え、
対話が生まれ、
失敗が共有され、学びに変わっていく。

誰かが迷っても、
組織が支える側に回るようになる。

恐怖で統率された組織には、生まれない風景だ。

組織がその臨界を超えたと感じた時、たまらない瞬間だ。
アウトプットどころか経営の数字も変わる。
何より幸せそうな目に変わる。自己実現のステージに立つ喜びとでもいったところだろう。

僕自身の個人のミッションは実はここにある。2024年、事業継承支援という文脈でこれをして地域の中小企業を幸せな集団に変えて回る長い旅路についた。

無尽蔵な経営資源

恐怖で人を動かすことは、今もできる。
むしろその方が簡単。なぜなら自分の心を通さず、相手の心に「やれ!」という言葉を突き刺せばいいのだから。
その刃先に、ペナルティや疎外といった毒を塗っておけば効果覿面だ。
だがそれは、本当に経営なのだろうか。

きっと恐怖支配をしている経営者はこういうだろう。「強い覚悟を持ってやっている」と。ちなみに僕も「強い覚悟を持ってやっている」。

人の内側にある、数値化できない資源。
思考する力、
責任を引き受ける意志、
自分の人生を生きようとする覚悟。

それらは、抑えつけても引き出せない。
信じ、問い、待つことでしか立ち上がらない。

今日、あなたは何を使って人を動かしているだろうか。

恐怖か、意図的なバイアスか。

それとも、人の内側にある可能性だろうか。

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筆者紹介:風を読む人事家
自動車業界で、人事etc.~海外子会社CEO~人事担当役員を経て当社へ。人事・組織論の長年の実践知を注入し、「社員の幸福感」と「経営へのインパクト」との両立に挑戦中。
週末のライフワークである人事・組織理論の読書の傍らで徒然なるままに書き溜めたブログです。
建設業のリアルな現場での実践知の共有や、人事・組織論の視点から世の中の矛盾や不条理を鋭く、時に皮肉を交えて切り取ります。
業種を問わずさまざまな企業の中で「なんかモヤモヤしてる」「組織の中で立ち止まってる」そんなあなたの思考に一石を投じるヒントがここにあるかもしれません。
2025年7月より当社代表取締役社長